近年、救急救命士の活躍の場は、消防機関だけでなく病院へと大きく広がっています。2021年の救急救命士法改正により、病院内(主に救急外来)での救急救命処置も可能となり、その役割と期待はますます高まっていますね。
「病院で働く救急救命士って、どんな仕事をしているの?」 「今後のキャリアはどうなるんだろう?」 「専門性を高めてステップアップしたい!」
そんな想いを抱いている方も多いのではないでしょうか?
今回は、そうした病院で働く救急救命士(病院救急救命士)のリアルな声と、未来のキャリアを切り拓くための新たな取り組み、「クリニカルラダー」について、ある病院の調査・報告文献をもとにご紹介します。
病院救急救命士の「期待」と「不安」~現場の声から見えたこと~
文献では、都内のある二次救急病院(東京曳舟病院)で働く救急救命士、医師、看護師へのアンケート調査が行われました。そこからは、病院救急救命士が抱えるリアルな現状が見えてきます。
【期待すること】
- 雇用の拡大: 病院という新たな活躍の場への期待。
- 地位向上: 病院内での役割確立と専門職としての認知度アップ。
- 処置範囲の拡大: 法改正により、これまで学んできた知識や技術を院内で活かせる機会が増えることへの期待(特に静脈路確保や血糖測定など)。
- チーム医療への貢献: 医師・看護師不足の中で、患者さんのためにできることが増えることへのやりがい。
【不安なこと】
- 教育体制: スキルアップのための具体的な教育制度がまだ整っていないことへの不安。
- 責任の増大: 処置拡大に伴う責任の重さや、インシデント・アクシデントへの懸念。
- 他職種との連携: 業務内容や役割について、医師や看護師に十分に理解されていないのではないかという不安。
- 保障: 看護師のような賠償責任保険などの保障制度がまだないこと。
アンケートでは、医師・看護師の多くが救急救命士の存在を「非常に有用・有用」と感じている一方で、具体的な業務内容の把握は十分でなく、特に「特定行為」の実施に対しては「手技・経験不足への不安」から許容度が低いという結果も出ています。
期待と不安が交錯する中、病院救急救命士がその専門性を存分に発揮し、安心して働き続けられる環境をどう作るか? その鍵となるのが「教育体制の整備」です。
未来への羅針盤!「救命士クリニカルラダー」導入の挑戦
この課題に対し、文献で紹介されている病院では、院内のメディカルコントロール(MC)体制を見直し、**救急救命士に特化した「クリニカルラダー」**を作成・導入するという先進的な取り組みを始めています。
「クリニカルラダー」って何?
これは、看護師の教育でよく用いられる能力開発・評価の仕組みです。個々の経験や能力に応じて段階的な目標(レベル)を設定し、それを達成していくことで、着実にスキルアップとキャリアアップを目指せるように設計されています。
この病院で導入された「救命士ラダー」は、レベルI~Vの5段階で構成されています。
- レベルⅠ(新人): 基礎技術の実践、報告・連絡・相談の徹底、社会人としての基本。
- レベルⅡ(一人立ち): 患者の優先度判断、異常の察知、特定行為を含む手技・知識の習得。
- レベルⅢ(中堅): チーム医療への貢献、後輩指導の開始、医師事務作業補助資格の取得など。
- レベルⅣ(リーダー): 高度な知識・技術の習得、リーダーシップの発揮、後輩指導・評価。
- レベルⅤ(管理者): 部署全体の管理、病院経営への参画、組織全体の質向上への貢献。
評価項目も、「救急救命士臨床能力」だけでなく、「マネージメント能力」「教育・研究能力」「コミュニケーション能力」など多岐にわたり、救急救命士として総合的に成長していく道筋を示しています。
ラダーがもたらす、救急救命士の明るい未来
この「救命士クリニカルラダー」の導入は、病院で働く救急救命士にとって、多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。
- 明確な目標設定: 今何を学び、次に何を目指せば良いかが明確になり、モチベーションを維持しやすい。
- 体系的な教育: OJT(現場教育)に加えて、レベルに応じた研修や評価が行われることで、質の高い教育が受けられる。
- スキルと自信の向上: 不安の大きかった特定行為なども、段階を踏んで確実に習得でき、自信を持って業務に取り組める。
- キャリアパスの可視化: 将来どのような役割を担い、どうステップアップしていけるのか、具体的なキャリアプランを描きやすくなる(特に新卒で病院に就職した方には朗報!)。
- 役割の明確化と地位向上: ラダーを通じてスキルや役割が可視化されることで、他職種からの理解と信頼を得やすくなり、チーム医療の中でより重要な存在となれる。
まとめ:あなたの可能性を病院で開花させよう!
救急救命士を取り巻く環境は、今まさに変化の時を迎えています。病院というフィールドは、あなたの知識、技術、そして経験を活かせる大きな可能性を秘めています。
今回ご紹介した「クリニカルラダー」のような教育体制の整備は、病院救急救命士が安心して専門性を高め、キャリアを築いていく上で不可欠な要素となるでしょう。
この記事が、病院勤務に関心のある方、現在病院で奮闘されている方、そして今後のキャリアについて考えているすべての救急救命士の皆さんにとって、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
あなたの持つ力は、病院という場所で、さらに多くの患者さんを救う力となるはずです。未来に向けて、一緒に歩みを進めていきましょう!
参考文献: 野添めぐみ, 他. 病院に勤務する救急救命士へのラダー制度の導入に向けた取り組み. 日本臨床救急医学会雑誌. 2024:27:653-60. [source: 1, 2, 13]