日々、緊迫した現場で人命救助の最前線に立つ救急救命士の皆さん、本当にお疲れ様です。その使命感と専門性は、社会にとってかけがえのないものです。
しかし、経験を重ねる中で、ふと**「最近、仕事に慣れてきたけど、新しい挑戦が減ったな」「この先のキャリア、どう進んでいけばいいんだろう?」**と感じることはありませんか?
それは「キャリア・プラトー」と呼ばれる、キャリアの停滞感かもしれません。今回は、多くの人が経験しうるこの現象と、それを乗り越えるためのヒントについて、ある研究を参考に考えていきましょう。
「キャリア・プラトー」って何?
キャリア・プラトーとは、簡単に言うと**「これ以上の昇進が見込めない(構造的プラトー)」と感じたり、「今の仕事に慣れてしまい、新たな挑戦や学びが少なくなった(内容的プラトー)」**と感じる状態のことです。
- 構造的プラトーの例: ポストが限られていて、なかなか昇任の機会が巡ってこない…。
- 内容的プラトーの例: 一通りの業務はマスターしたけど、マンネリ化して刺激が足りない…。
どちらも、長く続くとモチベーションの低下に繋がってしまう可能性があります。特に、専門職である救急救命士にとって、主体的なキャリア発達は重要ですよね。
停滞感を打ち破る3つのヒント
では、どうすればこの停滞感を乗り越え、再び成長への意欲を高めることができるのでしょうか? 研究から見えてきたヒントを3つご紹介します。
ヒント1:明確な「キャリア目標」を設定する
「将来、どんな救急救命士になりたいか?」「どんな役割を担いたいか?」具体的な目標を持つことは、停滞感を打破する大きな力になります。
研究によると、キャリア目標を設定している救急隊員は、目標がない隊員に比べてプラトー化しにくい傾向があることが分かりました。目標を持つことで、日々の業務にも目的意識が生まれ、昇任やスキルアップへの意欲(昇任可能性の認知や職務挑戦性)が高まるようです。
「指導救命士になりたい」「救急隊長としてチームを引っ張りたい」「管理職として組織に貢献したい」など、あなた自身の目標を設定してみませんか? CDP(キャリア開発プログラム)などを活用して、組織として目標設定を支援する動きも重要かもしれません。
ヒント2:「指導救命士」という選択肢を意識する
救急救命士としての経験を積んだ先にあるキャリアパスとして、「指導救命士」は大きな目標となり得ます。指導救命士は、後進の育成や教育体制の構築など、教育的な役割を担うスペシャリストです。
研究では、指導救命士の資格を持っていること、また指導救命士を目標とすることが、仕事への挑戦意欲を高め、内容的プラトー化を抑制する効果があることが示唆されています。
かつては救急救命士の資格取得がキャリアの一つのゴールと見なされがちでしたが、指導救命士制度の創設により、新たな目標と活躍の場が生まれました。指導救命士を目指すこと自体が、自己啓発やモチベーション向上に繋がるのです。
ヒント3:「教えること」で「学ぶ」
日々の業務に加えて、「教育」に関わることも、キャリアの停滞感を打破するきっかけになります。新人隊員の指導や、勉強会の企画・運営など、あなたが持つ知識や経験を後輩に伝える役割を担ってみませんか?
消防庁の教育指針でも、新人以外の救急隊員は「教育担当者」としての役割が期待されています。「教えながら学ぶ」ことで、自身の知識が整理され、新たな気づきや成長に繋がることは多いものです。これは、研究で示唆されている「助言者役割」(教師、コーチ、役割モデルなど)を担うことで、自身の停滞感を解消し、満足感を得ることにも繋がります。
さらに、指導を受ける側にとっても、先輩からの的確なアドバイスは成長を促し、プラトー化を防ぐ効果が期待できます。教育への積極的な関与は、自分だけでなく、チーム全体の活性化にも貢献するのです。
まとめ:停滞は、次へのジャンプ台!
キャリアの停滞感は、決して特別なことではありません。しかし、それを乗り越える鍵は、あなたの中にあります。
- 未来を描く「目標設定」
- 新たな役割への「挑戦」(指導救命士など)
- 知識を繋ぐ「教育への関与」
これらのヒントを参考に、ぜひ一歩踏み出してみてください。あなたの経験と情熱は、あなた自身の未来を切り開き、そして救急医療の未来をも明るく照らすはずです。
参考文献: 定岡 由典 (2023). 救急隊員のキャリア・プラトー現象抑制に指導救命士制度と救急隊員教育が果たす役割. 日臨救急医会誌(JJSEM), 26, 447-54. (ユーザー提供資料: 26_447.pdf)