リフィーディング症候群では、急激な栄養摂取(特に炭水化物の摂取)がきっかけとなり、細胞内代謝が活発化します。この過程で大量のリン酸塩(リン)が細胞内に取り込まれ、血中のリン濃度が著しく低下(低リン血症)します。リンは細胞エネルギー代謝に不可欠な物質であり、低リン血症は深刻な全身的影響を引き起こします。
低リン血症の影響と症状
1. エネルギー代謝の障害
- ATP(アデノシン三リン酸)不足:
- リンはATP(細胞エネルギーの主要分子)の構成成分です。低リン血症ではATPが生成されにくくなり、エネルギー不足が生じます。
- 症状:
- 筋力低下
- 倦怠感
- 意識障害(最重度では昏睡)
2. 呼吸不全
- 横隔膜や呼吸筋の機能低下:
- ATP不足により横隔膜や呼吸筋が弱まり、呼吸が困難になることがあります。
- 症状:
- 呼吸困難
- 呼吸数の低下
- 酸素飽和度の低下
3. 心臓の機能障害
- 心筋の収縮不全:
- 心筋細胞のエネルギー不足が原因で、心拍出量の低下や不整脈が発生。
- 症状:
- 血圧低下
- 心不全
- 不整脈(特にQT延長による致死性不整脈)
4. 筋肉や骨格の異常
- 横紋筋融解症(Rhabdomyolysis):
- 筋細胞のエネルギー不足で壊死が起こり、筋肉が破壊されます。
- 症状:
- 筋肉痛、筋力低下
- ミオグロビン尿(赤褐色の尿)
- 腎不全(二次的な合併症)
- 骨の脆弱性:
- 慢性的な低リン血症が続くと骨の形成不全や骨軟化症が進行。
5. 神経系の障害
- 神経伝達の異常:
- ATP不足が神経細胞の機能を低下させます。
- 症状:
- しびれ、感覚鈍麻
- 意識障害や混乱
- けいれん発作
6. 赤血球や白血球の異常
- 赤血球変形能の低下:
- エネルギー不足により赤血球が硬くなり、毛細血管を通過しづらくなる。
- 症状:
- 貧血症状(息切れ、疲労感)
- 免疫機能の低下:
- 白血球の働きが低下し、感染症のリスクが増加。
低リン血症の重症度分類
低リン血症は血清リン濃度で分類されます。
重症度 | 血清リン濃度(mg/dL) | 主な影響・症状 |
---|---|---|
軽度 | 2.5~2.0 | 無症状または軽い倦怠感 |
中等度 | 2.0~1.0 | 筋力低下、呼吸困難 |
重度 | <1.0 | 呼吸不全、心不全、意識障害、死のリスク |
治療と管理
1. リンの補充
- 軽度~中等度の低リン血症:
- 経口リン製剤(例: ナトリウムリン酸塩)を投与。
- 重度の低リン血症:
- 静脈内投与(リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウム)。
- 注意点:
- 過剰補正を避けるために慎重にモニタリング。
- 静脈投与時には心電図をモニタリング(不整脈予防)。
2. 栄養療法の調整
- 初期のエネルギー摂取量を低めに設定(10kcal/kg/日以下)。
- 徐々に栄養摂取量を増加させ、電解質を補正しながら進める。
3. 血中リン濃度のモニタリング
- 栄養再開後、血中リン濃度を頻回に測定。
- 電解質異常が他にも起きやすいため(カリウム、マグネシウムなど)、全体的なバランスを確認。
4. 合併症の予防と対応
- 呼吸不全や心不全の兆候があれば、早急に集中治療を行う。
- 感染症予防のため、必要に応じて抗菌薬を使用。
まとめ
低リン血症は、リフィーディング症候群における最も危険な合併症の一つであり、全身の機能障害を引き起こします。早期発見と適切なリン補充、および栄養療法の慎重な開始が不可欠です。