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第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 14.生命の維持

1.5種類の栄養素をあげ、それぞれの役割について説明できる。 【学習のポイント】 私たちが食物から摂取する栄養素が、体を「動かすエネルギー源」「作る材料」「整える潤滑油」という3つの大きな役割を持っていることを、5つの栄養素に分類して理解します。 説明 生命活動の維持に必要な栄養素は、大きく糖質(炭水化物)、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの5種類に分類されます。特に前の3つは三大栄養素と呼ばれます。 糖質(炭水化物):主な役割は、体を動かすためのエネルギー源となることです。特にブドウ糖(グルコース)は、脳をはじめとする多くの器官で中心的なエネルギーとして利用されます(1gあたり4kcal)。 脂質:効率の良いエネルギー源として体内に貯蔵されます(1gあたり9kcal)。また、細胞膜の主成分となったり、各種ホルモンの材料になったりします。 タンパク質:筋肉や臓器、皮膚、酵素、ホルモンなど、体を作る主要な材料となります。通常はエネルギー源としてあまり使われませんが、飢餓時などにはエネルギーとしても利用されます(1gあたり4kcal)。 ビタミン:体の機能を正常に保つために微量で働く潤滑油のような役割を持ちます。三大栄養素がエネルギーに変わる際の代謝を助ける(補酵素)など、様々な働きがあります。 ミネラル(無機質):骨や歯の材料となる(カルシウムなど)ほか、体液の浸透圧やpHを調整する電解質として、またヘモグロビンの成分(鉄)となるなど、体の機能を維持・調節するために不可欠です。 2.ブドウ糖からエネルギーが産生される過程について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 ブドウ糖がエネルギー(ATP)に変わる過程が、①酸素がなくても行える「解糖系」と、②酸素を使って大量のエネルギーを作る「TCAサイクル・電子伝達系」の2段階で行われることを理解します。 説明 ブドウ糖からエネルギーの通貨である**ATP(アデノシン三リン酸)**が産生される過程は、大きく2つの段階に分かれます。 解糖(かいとう)系: 細胞の細胞質で行われます。 酸素を必要とせず、1分子のブドウ糖が2分子のピルビン酸に分解されます。 この過程で、**少量のATP(2分子)**が産生されます。 TCAサイクルと電子伝達系: 細胞内のミトコンドリアで行われます。 この過程には酸素が必要です(好気性代謝)。 解糖系で作られたピルビン酸が、アセチルCoAという物質に変換されてTCAサイクル(クエン酸回路)に入り、さらに電子伝達系という過程を経て、**大量のATP(30分子前後)**が産生されます。 生命活動に必要なエネルギーの大部分は、酸素を利用する②の過程で効率よく作られます。 3.脂質、蛋白質からエネルギーが産生される過程について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 脂質やタンパク質も、分解されてアセチルCoAなどの共通の物質に形を変えることで、ブドウ糖と同じエネルギー産生経路(TCAサイクル)に入って利用されることを理解します。 説明 脂質やタンパク質も、それぞれ異なる分解過程を経て、最終的にはブドウ糖と同様の経路でエネルギー(ATP)を産生します。 脂質からのエネルギー産生: 中性脂肪は脂肪酸に分解されます。 脂肪酸は、β酸化という過程を経てアセチルCoAに変換されます。 このアセチルCoAがミトコンドリアのTCAサイクルに入り、大量のエネルギーが産生されます。 タンパク質からのエネルギー産生: タンパク質はアミノ酸に分解されます。 アミノ酸からアミノ基(窒素を含む部分)が取り除かれ、残った部分がピルビン酸やアセチルCoAなどに変換されます。 これらがTCAサイクルに入り、エネルギーが産生されます。 4.体内での酸素の移動を、酸素カスケードの概念を用いて説明できる。 【学習のポイント】 酸素が、あたかも滝の水が高い所から低い所へ流れるように、「分圧」という圧力の勾配に従って、空気中から最終目的地である細胞のミトコンドリアまで運ばれる、というイメージを掴みます。 説明 **酸素カスケード(酸素瀑布)とは、酸素が体内を移動する際に、その分圧(圧力)が段階的に低下していく様子を表す概念です。酸素は、この分圧の勾配(圧力差)**に従って、分圧の高い方から低い方へと自然に移動します。 大気中の酸素分圧 ↓(吸気・加湿) 肺胞内の酸素分圧(約100mmHg):空気と血液が混じるため、大気中より低下します。 ↓(肺でのガス交換) 動脈血の酸素分圧(約95mmHg):肺胞から血液に移動する際に、わずかに低下します。 ↓(組織への運搬・放出) 組織・細胞の酸素分圧:血液から組織へ酸素が渡されるため、さらに低下します。 ↓(細胞内での利用) ミトコンドリア内の酸素分圧(1mmHg以上):酸素が最終的に消費される場所で、最も分圧が低くなります。 この一連の圧力の「滝」のような落差があるからこそ、酸素はスムーズに最終目的地のミトコンドリアまで届けられます。 5.体液の量・電解質組成、酸塩基平衡、浸透圧、および体温を維持する仕組みについて、それぞれ簡単に説明できる。 【学習のポイント】 生命活動の土台となる体内の内部環境(ホメオスターシス)が、複数の器官系(特に腎臓、肺、内分泌系、神経系)の協調した働きによって、常に一定の範囲に保たれていることを理解します。 説明 生体は、細胞が最適な環境で機能できるよう、体内の状態を一定に保つ仕組み(ホメオスターシス)を持っています。 体液の量・電解質組成の維持: 主に腎臓が、尿の量や成分を調節することで維持しています。 喉の渇きによる水分摂取や、抗利尿ホルモン(ADH)による水分の再吸収、アルドステロンによるナトリウムの再吸収など、内分泌系や神経系が密接に関わっています。 酸塩基平衡(pH)の維持: 体液が酸性やアルカリ性に極端に傾かないよう、pHを狭い範囲(弱アルカリ性)に保つ仕組みです。 血液中の緩衝系(瞬時に反応)、肺による二酸化炭素の排出(数分〜数時間で反応)、腎臓による酸やアルカリの排泄(数時間〜数日で反応)という3つの仕組みが連携して調節しています。 浸透圧の維持: 体液の「濃さ」を一定に保つ仕組みで、主に水分とナトリウムのバランスによって調節されます。 体液が濃くなる(浸透圧が上昇する)と、脳がそれを感知して喉の渇きを感じさせたり、抗利尿ホルモン(ADH)を分泌して尿量を減らしたりして、体液を薄めようとします。 体温の維持: 脳の視床下部が司令塔となり、熱の産生量と放出量のバランスをとることで体温を一定に保っています。 熱の産生:食事や運動、ふるえ(筋肉の収縮)などによって行われます。 熱の放出:暑い時には、皮膚の血管を拡張させたり、発汗したりして熱を逃します。寒い時には、血管を収縮させて熱が逃げるのを防ぎます。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 13.皮膚系

1.皮膚を構成する3つの層を表層から順にあげ、それぞれの構造について説明できる。 【学習のポイント】 皮膚が、外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」という3つの層でできていること、そして各層が持つ構造的な特徴(細胞の種類、付属器の有無、脂肪の存在など)を理解します。 説明 皮膚は、体の表面を覆う膜性の構造で、表層から順に表皮、真皮、皮下組織の3つの層で構成されています。 表皮(ひょうひ) 構造:皮膚の最も外側にある厚さ0.2mm程度の薄い層です。血管は通っていません。表皮の最深部(基底層)では細胞分裂が活発に行われ、新しい細胞が作られています。この細胞は、ケラチンというタンパク質を蓄えながら徐々に表面へ押し上げられ、最終的には死んだ細胞からなる硬い**角質層(かくしつそう)**となって、垢としてはがれ落ちます。この角質層が、皮膚のバリア機能の中心を担っています。その他、メラニン色素を作るメラノサイトや、免疫に関わるランゲルハンス細胞なども存在します。 真皮(しんぴ) 構造:表皮の下にある厚い層で、皮膚の本体ともいえる部分です。コラーゲンなどの線維成分に富む丈夫な結合組織でできており、皮膚の弾力性や強度を保っています。真皮には、血管、リンパ管、神経が豊富に分布しているほか、毛包、汗腺、脂腺といった皮膚付属器が存在します。 皮下組織(ひかそしき) 構造:真皮と、その下にある筋膜との間にある層で、その大部分は脂肪組織(皮下脂肪)で占められています。 役割:外力に対するクッションとして衝撃を和らげるほか、体温を保つための断熱材や、エネルギーの貯蔵庫としての役割も果たします。 2.皮膚の機能について説明できる。 【学習のポイント】 皮膚が体を覆う単なる「カバー」ではなく、保護、体温調節、感覚、ビタミンD生成など、生命維持に欠かせない多くの機能を持つ多機能な器官であることを理解します。 説明 皮膚は、以下のような多様な機能を持っています。 保護機能:最も外側の角質層が、物理的な刺激、化学物質、細菌などの異物が体内に侵入するのを防ぐバリアとして働きます。また、メラニン色素が紫外線を吸収し、深部組織を有害な紫外線から守ります。 体液の保持:皮膚が水分の蒸発を防ぎ、体内の水分が過剰に失われるのを防ぎます。 体温調節機能:暑い時には、皮膚の血管を拡張させて熱を放散したり、汗腺から汗を分泌してその気化熱で体温を下げたりします。寒い時には、血管を収縮させて熱が逃げるのを防ぎます。 感覚機能:皮膚には痛覚、触覚、圧覚、温度覚などを感じる多数の神経終末や受容器が存在し、外界の情報を感知するセンサーとして働きます。 ビタミンDの生成:表皮に紫外線が当たることで、カルシウムの吸収に必要なビタミンDが生成されます。 分泌・排泄機能:汗腺から汗(水分、塩類など)を、脂腺から皮脂を分泌します。 3.皮膚付属器をあげ、それぞれの構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 皮膚から変化してできた付属器(毛、爪、汗腺、脂腺、乳腺)の名称と、それぞれの役割を覚えます。 説明 皮膚付属器とは、皮膚が特殊に分化してできた器官のことで、毛髪、爪、汗腺、脂腺、そして乳腺が含まれます。 毛髪(もうはつ) 構造・機能:ケラチンというタンパク質でできた糸状の構造物です。皮膚に埋まった部分(毛根)は毛包に包まれています。頭部などを物理的な刺激や紫外線から保護する役割や、保温機能があります。毛包には立毛筋が付着しており、これが収縮すると「鳥肌」が立ちます。 爪(つめ) 構造・機能:これもケラチンでできた硬い板状の構造で、指の末端の背面を覆っています。指先を保護するとともに、物をつまむなどの細かい作業を助ける役割があります。 汗腺(かんせん) 構造・機能:汗を分泌する腺で、全身に分布するエクリン汗腺と、腋の下などに局在するアポクリン汗腺があります。エクリン汗腺から分泌される汗は、主に体温調節の役割を担います。アポクリン汗腺から出る汗は、体臭の原因となることがあります。 脂腺(しせん) 構造・機能:皮脂を分泌する腺で、多くは毛包に開口します。分泌された皮脂は、皮膚や毛髪の表面に皮脂膜を作り、潤いとしなやかさを保ち、乾燥や細菌から守る働きをします。 乳腺(にゅうせん) 構造・機能:汗腺の一種であるアポクリン汗腺が特殊に変化したもので、乳汁を産生・分泌します。成人女性の前胸部にあり、乳房を形成します。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 12.筋・骨格系

1.骨格筋の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 骨格筋が自分の意志で動かせる「随意筋」であり、骨に付着して関節を動かすこと、そして体を動かす以外にも熱産生や栄養貯蔵といった重要な役割を持つことを理解します。 説明 構造: 骨格筋は、顕微鏡で見ると横縞模様がある横紋筋であり、自分の意志で動かすことができる随意筋です。 個々の筋は、筋線維という細長い細胞が多数束になったものです。筋線維の束は筋周膜に、筋全体は筋膜に包まれています。 筋の両端は、丈夫な結合組織である**腱(けん)**となって骨に付着しています。 機能: 運動:骨格筋は一つ以上の関節をまたいで骨に付着しているため、収縮することで関節を動かし、体の運動を生み出します。 熱の産生:安静時でも活発に熱を産生し、体温の維持に関わっています。 栄養素の貯蔵:血液中のブドウ糖をグリコーゲンとして蓄えたり、飢餓時には筋タンパク質を分解してエネルギー源として利用したりする、栄養の貯蔵庫としての役割も担います。 2.主な骨格筋をあげ、それぞれを自分の身体で指し示すことができる。 【学習のポイント】 体の各部分にある、代表的な筋肉の名称とそのおおよその位置を覚えます。自分の体で確認しながら覚えることが効果的です。 説明 人体には多数の骨格筋がありますが、主なものは以下の通りです。 頭部・顔面・頸部の筋: 表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋など):顔の表情を作ります。 咀嚼筋(咬筋、側頭筋など):食べ物を噛むために下顎を動かします。 胸鎖乳突筋:首の前面から側面にある大きな筋肉で、首を曲げたり回したりします。 体幹前面の筋: 大胸筋:胸の大部分を覆う大きな筋肉です。 腹直筋:いわゆる「腹筋」で、体幹を前に曲げます。 外肋間筋:肋骨の間にあり、息を吸うときに働きます。 横隔膜:胸腔と腹腔を隔てるドーム状の筋肉で、最も重要な呼吸筋です。 体幹後面の筋: 僧帽筋:首の後ろから背中の中央上部を覆う菱形の筋肉です。 広背筋:脇の下から腰にかけて広がる大きな筋肉です。 上肢の筋: 三角筋:肩を覆う筋肉で、腕を横に上げます。 上腕二頭筋:「力こぶ」を作る筋肉で、肘を曲げます。 上腕三頭筋:上腕の裏側にある筋肉で、肘を伸ばします。 下肢の筋: 大殿筋:お尻のふくらみを作る大きな筋肉で、股関節を伸ばします。 大腿四頭筋:太ももの前面にある人体で最大の筋肉で、膝を伸ばします。 下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋):いわゆる「ふくらはぎ」の筋肉で、つま先立ちをするように足首を伸ばします。 3.骨(長骨)の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 骨が単なる支柱ではなく、血液を作る工場(骨髄)やカルシウムの貯蔵庫としての役割も持つ、生きた組織であることを理解します。特に四肢に見られる長骨の基本的な構造を覚えます。 説明 構造: 四肢に見られる上腕骨や大腿骨などの長い骨を**長骨(ちょうこつ)**といいます。 長骨は、中央の骨幹と、両端の膨らんだ骨端からなります。 表面は骨膜で覆われ、その内側は硬く密な皮質骨、骨の内部(特に骨端)はスポンジ状の海綿骨でできています。 骨幹の中心には**髄腔(ずいくう)という空洞があり、海綿骨の隙間とともに、血液細胞を作る骨髄(こつずい)**で満たされています。 機能: 身体の支持:人体の骨格(骨組み)を形成し、体を支えます。 運動:骨格筋の付着部となり、てことして働いて運動を可能にします。 臓器の保護:頭蓋骨が脳を、胸郭が心臓や肺を保護するように、重要な臓器を囲んで守ります。 造血:内部の骨髄で、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞を作ります。 ミネラルの貯蔵:体内のカルシウムの99%を貯蔵しており、必要に応じて血中に放出することで、血中カルシウム濃度を調節します。 4.主要な骨をあげ、それぞれを自分の身体で指し示すことができる。 【学習のポイント】 人体の骨格を構成する、主要な骨の名称と位置を覚えます。 説明 人体の骨格を構成する主な骨は以下の通りです。 頭蓋骨:脳を保護する脳頭蓋(前頭骨、頭頂骨など)と、顔の骨格を作る顔面頭蓋(上顎骨、下顎骨など)からなります。 脊柱:体の中心軸となる「背骨」で、頸椎・胸椎・腰椎と、その下の仙骨・尾骨からなります。 胸郭:胸骨、12対の肋骨、12個の胸椎で構成されるカゴ状の骨格です。 上肢の骨:鎖骨、肩甲骨、上腕の上腕骨、前腕の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)、手の手根骨・中手骨・指骨からなります。 骨盤:左右の寛骨(かんこつ)と仙骨で構成される輪状の骨格です。 下肢の骨:太ももの大腿骨、膝の皿である膝蓋骨、すねの脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)、足の足根骨・中足骨・趾骨からなります。 5.椎骨と脊柱の構造について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 脊柱が、椎骨というブロック状の骨と椎間板というクッションを交互に積み重ねてできていること、そしてその中を脊髄が通る管(脊柱管)が形成されていることを理解します。 説明 脊柱(せきちゅう):一般に「背骨」と呼ばれるもので、椎骨(ついこつ)という短い骨がいくつも連なってできています。上から7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎、そして仙骨、尾骨から構成されます。横から見るとS字状の生理的彎曲(わんきょく)をしています。 椎骨:脊柱を構成する個々の骨です。前方の円柱状の椎体と、後方の椎弓からなり、その間に脊髄が通る椎孔があります。椎骨が連なることで、椎孔は脊柱管という一本の管になります。 椎間板:椎体と椎体の間にあり、クッションの役割を果たしています。中心部のゼリー状の髄核と、それを取り囲む丈夫な線維輪からなります。 6.骨盤の構造について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 骨盤が、左右の寛骨と仙骨という3つの骨が組み合わさってできた、非常に丈夫なリング状の構造であることを理解します。 説明 骨盤は、体幹と下肢をつなぐ部分にあり、上半身の体重を支え、内臓を保護する重要な骨格です。 左右一対の寛骨(かんこつ)と、中央後方の仙骨(せんこつ)が組み合わさって、頑丈な輪(骨盤輪)を形成しています。 左右の寛骨は、前方で恥骨結合により、後方で仙骨と仙腸関節により、それぞれ連結されています。なお、寛骨は、腸骨・坐骨・恥骨という3つの骨が癒合してできたものです。 7.関節の一般的な構造を説明できる。 【学習のポイント】 関節が、骨と骨を滑らかに動かすための仕組みであり、骨の表面を覆う「関節軟骨」、全体を包む「関節包」、潤滑油である「関節液」がその基本要素であることを理解します。 説明 関節とは、骨と骨とが連結する部分で、体の運動を可能にしています。 典型的な関節は、以下のような構造をしています。 向かい合う骨の端(骨端)は、滑らかな関節軟骨で覆われています。 関節全体は、**関節包(かんせつほう)**という袋状の膜で包まれています。 関節包の内側にある**滑膜(かつまく)**からは、**関節液(滑液)**が分泌され、関節腔(関節内の空間)を満たしています。関節液は、関節の動きを滑らかにする潤滑油の役割と、血管のない関節軟骨に栄養を供給する役割を担っています。 関節の周囲は、**靱帯(じんたい)**によって補強され、安定性が保たれています。 8.四肢の大きな関節をあげ、その運動にかかわる主な骨格筋とその作用を述べることができる。 【学習のポイント】 四肢の代表的な関節(肩・肘・股・膝)について、それぞれどのような動きが可能で、その主な動きをどの筋肉が担当しているのかを対応させて覚えます。 説明 肩関節:肩甲骨と上腕骨からなる球関節で、非常に可動域が広いです。 腕を上げる(外転):主に三角筋 肘関節:上腕骨と橈骨・尺骨からなる蝶番関節で、主に曲げ伸ばしが可能です。 肘を曲げる(屈曲):主に上腕二頭筋 肘を伸ばす(伸展):主に上腕三頭筋 股関節:寛骨と大腿骨からなる球関節で、肩関節より可動域は狭いですが非常に安定しています。 股を曲げる(屈曲):主に腸腰筋 股を伸ばす(伸展):主に大殿筋 膝関節:大腿骨と脛骨からなる人体最大の関節です。 膝を伸ばす(伸展):主に大腿四頭筋 膝を曲げる(屈曲):主にハムストリング(大腿屈筋群)

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 11.血液・免疫系

1.血液の成分について説明できる。 【学習のポイント】 血液が、液体成分である「血漿」と、細胞成分である「血球」という2つの主要な部分から構成されていることを理解します。 説明 血液は、大きく分けて液体成分と有形成分(細胞成分)から構成されています。 血漿(けっしょう):血液の約55%を占める液体成分です。その約90%は水分で、その他にアルブミンなどのタンパク質、電解質、糖、脂質、ホルモン、老廃物などが溶け込んでいます。血液から凝固因子を除いたものを**血清(けっせい)**と呼びます。 有形成分(血球):血液の約45%を占める細胞成分です。赤血球、白血球、血小板の3種類があります。 2.血液系の機能について説明できる。 【学習のポイント】 血液が単に赤い液体ではなく、「運搬」「調節」「防御」という、生命維持に不可欠な多くの重要な役割を担っていることを理解します。 説明 血液は血管内を循環し、全身の細胞・臓器の機能を維持するために、以下のような多様な働きを担っています。 物質の運搬:肺から全身へ酸素を、全身から肺へ二酸化炭素を運ぶガス交換のほか、消化管で吸収した栄養素、内分泌器官で作られたホルモン、細胞から出た老廃物などを必要な場所へ運びます。 内部環境の維持:全身を巡ることで体温を均一に保つ体温調節や、緩衝作用によるpH(酸塩基平衡)の調節など、体内の環境を一定に保ちます(ホメオスターシス)。 生体防御:白血球や抗体などが、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体と戦い、体を感染から守ります(免疫)。 止血作用:血管が損傷した際、血小板や凝固因子が働いて出血を止めます(血液凝固)。 3.血球の種類とそれぞれの機能について説明できる。 【学習のポイント】 3種類の血球(赤血球、白血球、血小板)のそれぞれの「見た目の特徴」と「主な働き」を対応させて覚えます。特に白血球には多くの種類があることを理解します。 説明 血球には大きく分けて3種類あり、それぞれ異なる機能を持っています。 赤血球:核のない中央がくぼんだ円盤状の細胞で、血液の赤色のもとであるヘモグロビンを含んでいます。主な機能は、ヘモグロビンと酸素を結合させて酸素を全身に運搬することです。 白血球:核を持つ細胞で、体内に侵入した細菌や異物などから体を守る免疫機能を担います。機能や形態によって、さらに以下の種類に分けられます。 好中球:白血球の中で最も数が多く、細菌などを貪食(どんしょく、食べて処理すること)します。 リンパ球:抗体産生やウイルス感染細胞の破壊など、特異的な免疫反応の中心となります。 単球:白血球の中で最も大きく、組織内ではマクロファージとなって強力な貪食作用を示します。 好酸球:アレルギー反応や寄生虫感染に関与します。 好塩基球:アレルギー反応に関与するヒスタミンなどを含んでいます。 血小板:核のない不定形な細胞断片で、血管が損傷した際にその場所に集まって粘着・凝集し、血の塊(血栓)を作って出血を止める一次止血の役割を担います。 4.造血と血球の破壊について説明できる。 【学習のポイント】 血球が「骨髄」で生まれ(造血)、一定期間働いた後に主に「脾臓」で壊される(破壊)、という一生の流れを理解します。 説明 造血:血球が作られる過程を造血といいます。生後、全ての血球は骨の中にある骨髄(こつずい)で、共通の造血幹細胞という1種類の細胞から分化して作られます。成人では、主に胸骨、肋骨、骨盤、椎骨などの扁平骨で活発に造血が行われています。 血球の破壊:古くなった血球は体内から除去されます。 赤血球:寿命は約120日で、寿命が尽きると主に**脾臓(ひぞう)**で破壊されます。 血小板:寿命は約10日で、これも主に脾臓で破壊されます。 5.血漿の成分と機能について説明できる。 【学習のポイント】 血漿が血液の液体成分であり、水分以外に「タンパク質」が豊富に含まれ、それぞれが重要な役割(物質運搬、浸透圧維持、免疫、凝固など)を果たしていることを理解します。 説明 血漿は血液から血球を除いた淡黄色の液体成分で、その約90%は水です。水以外には、以下のような多様な物質が含まれ、それぞれが重要な機能を担っています。 血漿タンパク質: アルブミン:血漿タンパク質の主成分。様々な物質と結合して運搬するほか、血液の浸透圧(膠質浸透圧)を維持し、血管内に水分を保つ働きがあります。 グロブリン:抗体として働く免疫グロブリンなどが含まれ、免疫機能に関わります。 フィブリノゲン:血液凝固に必須の因子です。 その他:電解質、ブドウ糖、脂質、ホルモン、ビタミン、老廃物なども血漿に溶け込んで全身に運ばれます。 6.骨髄の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 骨髄が骨の中心部にある「血液細胞の工場」であることを理解します。 説明 構造:骨髄は、骨の内部の空洞を満たしている柔らかい組織です。活発に血球を作っている赤色骨髄と、脂肪組織に置き換わった黄色骨髄があります。小児期は全身の骨に赤色骨髄がありますが、成人になると体幹の骨や長管骨の骨端などに限定されます。 機能:骨髄の唯一かつ重要な機能は、赤血球、白血球、血小板という**全ての血液細胞を産生すること(造血)**です。 7.脾臓の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 脾臓が、血液に関する「フィルター」「破壊工場」「免疫器官」「貯蔵庫」という、複数の役割を持つ多機能な臓器であることを理解します。 説明 脾臓は左上腹部にある臓器で、通常は体表から触れることはできません。血液に関して、以下のような多様な機能を持っています。 古い血球の破壊:寿命が来た赤血球や血小板を捕捉し、破壊します。 血液の濾過(フィルター機能):血液中の異物や細菌などを取り除きます。 免疫反応:リンパ球が集まる白脾髄という領域があり、血液を介して侵入した病原体に対する免疫反応の場となります。 血液の貯蔵:血液を一時的に貯蔵し、出血時などには収縮して内部の血液を循環血中に送り出す、血液の貯蔵庫としての役割も果たします。 8.止血と凝固、線溶の過程について説明できる。 【学習のポイント】 出血が止まる仕組みが、①血管の収縮、②血小板による一次止血、③凝固因子による二次止血という段階的なプロセスであること、そして作られた血栓が不要になった後にはそれを溶かす仕組み(線溶)も備わっていることを理解します。 説明 止血と凝固:血管が損傷して出血が起こると、体は以下の3段階で止血を行います。 血管収縮:損傷した血管が反射的に収縮し、血流を減少させます。 一次止血:損傷部位に血小板が集まって粘着・凝集し、血小板血栓という一次的な「栓」を作って傷口を塞ぎます。 二次止血(血液凝固):血漿中の凝固因子が連鎖的に活性化(凝固カスケード)され、最終的にフィブリノゲンというタンパク質が、網目状の丈夫なフィブリンに変化します。このフィブリンが血小板血栓を覆い固め、強固なフィブリン血栓を形成して止血を完了させます。 線溶:血管の修復が完了した後、不要になった血栓を溶かして取り除く仕組みです。プラスミンという酵素がフィブリンを分解し、血栓を溶解します。 9.免疫の役割について説明できる。 【学習のポイント】 免疫が、自分(自己)と自分でないもの(非自己)を区別し、非自己を排除することで体を守るシステムであることを理解します。 説明 免疫とは、体内に存在する物質が「自分自身の成分(自己)」か「それ以外の異物(非自己)」かを見分け、非自己を認識して体から排除しようとする生体防御の仕組みです。 有利な役割: 体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原性微生物の排除。 体内で発生したがん細胞の発見と破壊。 毒素など有害な物質の中和・無毒化。 不利な役割: 臓器移植の際の拒絶反応。 花粉など無害なものに過剰に反応するアレルギー。 自己の組織を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患。 10.液性免疫、細胞性免疫の仕組みについて簡単に説明できる。 【学習のポイント】 特定の異物(抗原)を狙い撃ちする免疫には、抗体が主役の「液性免疫」と、免疫細胞自身が主役の「細胞性免疫」の2種類があることを区別して理解します。 説明 特定の抗原に対してのみ反応する特異的免疫には、以下の2つの仕組みがあります。 液性免疫:Bリンパ球が主役の免疫です。Bリンパ球は、特定の抗原を認識すると形質細胞に分化し、その抗原にだけ結合する抗体というタンパク質を大量に産生します。抗体は血液や体液中に放出され、細菌や毒素に結合して無力化したり、貪食細胞が食べやすいように目印を付けたりします。主に、細胞の外にいる病原体に対して働きます。 細胞性免疫:Tリンパ球が主役の免疫です。ウイルスに感染した自己の細胞や、がん細胞など、細胞ごと異常になったものをTリンパ球が直接認識し、攻撃・破壊します。ヘルパーT細胞が司令塔となり、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が攻撃を実行します。 11.能動免疫、受動免疫について実例をあげて説明できる。 【学習のポイント】 免疫の獲得方法には、自力で獲得する「能動免疫」と、他者から抗体をもらって一時的に得る「受動免疫」の2種類があることを、具体例とともに理解します。 説明 能動免疫:抗原(病原体など)が体内に侵入したことに対し、自分自身の免疫系が働いて抗体や記憶細胞(メモリー細胞)を作り、獲得する免疫です。一度獲得すると長期間持続するのが特徴です。 実例: 麻疹(はしか)などの感染症に一度かかると、二度とかかりにくくなる。 ワクチン接種によって、病原性を取り除いた(あるいは弱めた)抗原を投与し、人工的に免疫を獲得させる。 受動免疫:自分では抗体を作らず、他者が作った抗体を体内に取り込むことで一時的に獲得する免疫です。効果は短期間で、記憶もされません。 実例: 胎盤や母乳を通じて、母親から胎児や乳児へ抗体が移行する。 ヘビ毒の治療などで、抗体を含む抗毒素血清を注射する。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 10.内分泌系

1.内分泌の特徴について、外分泌と対比させながら説明できる。 【学習のポイント】 物質を放出する「分泌」には2種類あり、その違いは「導管」の有無と「分泌先」です。内分泌は血液中へ、外分泌は体の外や消化管などへ物質を放出する、という根本的な違いを理解します。 説明 細胞が作った物質を外に放出することを分泌といい、内分泌と外分泌の2種類に分けられます。 外分泌(がいぶんぴ) 汗腺や唾液腺、消化腺などがこれにあたります。 作られた分泌物(汗、唾液、消化液など)が、**導管(どうかん)**という専用の管を通って、体表や消化管内など、体の「外側」にあたる空間へ放出されるのが特徴です。 内分泌(ないぶんぴ) 下垂体や甲状腺などの内分泌器官が行う分泌形式です。 作られたホルモンという物質が、導管を通らずに、細胞から直接周囲の毛細血管に入り、血液によって全身へ運ばれるのが特徴です。ホルモンは、血液に乗って全身を巡り、特定の標的となる細胞にのみ作用します。 内分泌外分泌分泌物ホルモン汗、唾液、消化液など導管の有無なしあり分泌先血液中体表、消化管内など 2.フィードバックによるホルモン分泌の調節について、甲状腺ホルモンを例に説明できる。 【学習のポイント】 ホルモンの血中濃度は、多すぎず少なすぎず、常に一定に保たれる必要があります。そのための「フィードバック」という、巧みな自動調節の仕組みを理解します。 説明 多くのホルモンの分泌量は、フィードバックという仕組みによって巧妙に調節されています。これは、ホルモンの血中濃度に応じて、そのホルモンの分泌をコントロールする司令塔(視床下部や下垂体)の働きが変化する仕組みです。甲状腺ホルモンを例に説明します。 甲状腺ホルモンが低下した場合(ネガティブフィードバック) 血液中の甲状腺ホルモンが少ないと、司令塔である下垂体がそれを感知します。 下垂体は「もっと甲状腺ホルモンを出すように」という命令である**甲状腺刺激ホルモン(TSH)**の分泌を増やします。 TSHが甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌が増加して、血中濃度が正常に戻ります。 甲状腺ホルモンが過剰になった場合 逆に、血液中の甲状腺ホルモンが多すぎると、下垂体はTSHの分泌を減らします。 これにより甲状腺への刺激が弱まり、甲状腺ホルモンの分泌が抑えられ、血中濃度が正常に保たれます。 このように、最終産物(甲状腺ホルモン)の量が、その生産過程(TSHの分泌)を調節することで、全体のバランスを保つ仕組みがフィードバックです。 3.主な内分泌器官をあげ、そこから分泌される主なホルモンとその働きについて説明できる。 【学習のポイント】 全身に散らばる主要な内分泌器官の「場所」と、そこから分泌される代表的な「ホルモンの名前」、そしてそのホルモンが体に「何をするのか」をセットで覚えることが重要です。 説明 主な内分泌器官と、そこから分泌されるホルモン、その働きは以下の通りです。 下垂体:脳の直下にある内分泌系の司令塔です。 前葉 成長ホルモン:骨や筋肉に作用し、体の成長を促します。 甲状腺刺激ホルモン(TSH):甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌を促します。 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH):副腎皮質を刺激し、コルチゾールなどの分泌を促します。 性腺刺激ホルモン(FSH, LH):精巣や卵巣に作用し、性ホルモンの分泌や精子・卵胞の成熟を促します。 乳汁分泌ホルモン(プロラクチン):乳腺の発育と、分娩後の乳汁分泌を促します。 後葉 抗利尿ホルモン(ADH):腎臓での水の再吸収を促進し、尿量を減らします。 オキシトシン:分娩時に子宮を収縮させたり、乳汁の分泌を促したりします。 甲状腺:喉ぼとけのすぐ下にある蝶形の器官です。 甲状腺ホルモン:全身の細胞の代謝を活発にし、エネルギー消費を高めます。 副甲状腺:甲状腺の裏側にある米粒大の器官です。 副甲状腺ホルモン:骨からカルシウムを放出し、血液中のカルシウム濃度を上昇させます。 副腎:腎臓の上に乗っている器官です。 皮質 アルドステロン:体内にナトリウムと水分を保持し、血圧を維持します。 コルチゾール:ストレスに対抗するホルモンで、血糖値を上昇させたり、抗炎症作用を持ったりします。 髄質 アドレナリン、ノルアドレナリン:交感神経と連携し、心拍数の増加や血圧上昇など、体を興奮・緊張状態にします。 膵臓(ランゲルハンス島):消化液を作る膵臓の中に島状に散らばる細胞群です。 インスリン:血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませ、血糖値を下げる唯一のホルモンです。 グルカゴン:肝臓に蓄えられたグリコーゲンを分解し、血糖値を上げるホルモンです。 性腺 精巣(男性):テストステロンを分泌し、男性らしい体つきなど二次性徴を発現させます。 卵巣(女性):**卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)**を分泌し、二次性徴の発現、性周期の維持、妊娠の成立・維持に関わります。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 9.生殖系

1.男性生殖器の器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 精子が作られてから体外に排出されるまでの経路(精巣→精巣上体→精管→尿道)と、それぞれの器官が持つ役割(精子を作る、成熟させる、運ぶ、精液を作るなど)を理解します。 説明 男性生殖器は、精子を作る精巣、精子を成熟させ運ぶための管(精巣上体、精管など)、精液の液体成分を作る付属腺(精嚢、前立腺など)、そして交接器である陰茎から構成されます。 精巣(睾丸):陰嚢内に左右一対で存在する男性の性腺です。主な役割は、精細管という管の中で精子を産生することと、男性ホルモン(テストステロン)を分泌することです。 精巣上体(副睾丸):精巣の後ろに付着する細長い器官です。精巣で作られた精子を一時的に貯蔵し、精子を成熟させる場所です。 精管:精巣上体から続く管で、成熟した精子を尿道まで運びます。 精嚢・前立腺:精液の液体成分の大部分を産生する付属腺です。これらの分泌液は、精子に栄養を与えたり、その運動を助けたりする役割を持ちます。 陰茎:内部は海綿体というスポンジ状の組織でできており、性的興奮によって血液が流入し充血することで勃起します。内部を尿道が通っており、射精時には精液の、排尿時には尿の通路となります。 射精:精巣上体に貯蔵されていた精子が、精管を通り、精嚢や前立腺からの分泌液と混ざり合って精液となって、尿道から体外へ射出される現象です。 2.女性生殖器の外性器の器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 女性の外性器を構成する各部分の名称と位置関係を理解し、それらが持つ保護や性的感覚などの役割を覚えます。 説明 女性の外性器は、体外から観察できる部分で、恥丘、大陰唇、小陰唇、陰核、膣前庭からなります。 恥丘:恥骨結合の前方にある、皮下脂肪で丘状に盛り上がった部分です。 大陰唇:恥丘から続く左右一対の皮膚のひだで、内部の小陰唇や膣前庭を保護しています。男性の陰嚢に相当します。 小陰唇:大陰唇の内側にある薄いひだで、膣前庭を囲んでいます。 陰核(クリトリス):小陰唇の上端にある小さな突起で、神経が豊富に分布し、性的刺激を受けやすい部分です。男性の陰茎に相当します。 膣前庭:小陰唇に囲まれたくぼんだ領域です。前方には外尿道口(尿の出口)が、その後方には膣口(膣の入り口)が開口しています。 3.女性生殖器の内性器の器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 女性の体内にあり、妊娠・出産に直接関わる各器官の役割を理解します。卵子が作られ(卵巣)、受精し(卵管)、育つ(子宮)までの一連の舞台となります。 説明 女性の内性器は、体内にあり、卵巣、卵管、子宮、膣から構成されます。 卵巣:子宮の左右に一つずつある親指頭大の器官で、女性の性腺です。主な役割は、卵子の元となる原始卵胞を貯蔵・成熟させ、月に一度、卵子を排出(排卵)することと、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)を産生・分泌することです。 卵管:卵巣と子宮をつなぐ長さ約10cmの管です。排卵された卵子を取り込み、精子と卵子が出会う受精の場となります。受精卵は、卵管の運動によって子宮へと運ばれます。 子宮:西洋ナシを逆さにしたような形の筋肉でできた臓器です。内側は子宮内膜という膜で覆われています。主な役割は、受精卵が着床し、胎児として発育する場となることです。分娩時には、子宮筋が強く収縮(陣痛)して胎児を娩出します。 膣:子宮と体外をつなぐ、伸縮性に富んだ管状の器官です。交接時に精子を受け入れるほか、分娩時には胎児が通る産道となります。 4.性周期について説明できる。 【学習のポイント】 女性の体で約1ヶ月周期で起こる変化が、脳(視床下部・下垂体)と卵巣から分泌されるホルモンの絶妙な連携によってコントロールされていることを理解します。このホルモンの波が、卵巣での排卵と、子宮内膜の準備・剥離(月経)を引き起こします。 説明 性周期(月経周期)とは、性成熟期の女性において、ホルモンの周期的な変動によって引き起こされる、卵巣と子宮の一連の周期的な変化のことです。 ホルモンによる調節: 脳の下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され、卵巣内の卵胞が発育します。 発育した卵胞から**卵胞ホルモン(エストロゲン)**が分泌され、子宮内膜が増殖して厚くなります。 エストロゲンがピークに達すると、下垂体から黄体化ホルモン(LH)が大量に分泌(LHサージ)され、これをきっかけに排卵が起こります。 排卵後の卵胞は黄体に変化し、**黄体ホルモン(プロゲステロン)**を分泌します。プロゲステロンは、子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整えます。 妊娠が成立しない場合: 黄体は寿命を迎え、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が急激に低下します。 ホルモンの支えを失った子宮内膜は剥がれ落ち、血液とともに体外へ排出されます。これが月経です。 この「卵胞の発育→排卵→黄体の形成→月経」という一連の流れが、約25〜38日の周期で繰り返されます。
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第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 8.泌尿系

1.泌尿系を構成する器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 泌尿系が、尿を「作り(腎臓)」「運び(尿管)」「溜め(膀胱)」「出す(尿道)」という一連の機能を持つ器官で構成されていることを理解します。 説明 構成する器官:泌尿系は、左右一対の腎臓(じんぞう)、左右一対の尿管(にょうかん)、一つ の膀胱(ぼうこう)、一つの**尿道(にょうどう)**から構成されます。 役割:泌尿系の主な役割は、体内の物質代謝によって生じた老廃物や不要な物質を、尿として体外へ生成・排出することです。これにより、体内の環境を一定に保つ重要な働きを担っています。 2.腎臓の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 腎臓が単に尿を作るだけでなく、体液のバランス調整やホルモン産生など、生命維持に不可欠な多様な機能を持つ「多機能臓器」であることを理解します。 説明 構造: 腎臓は、腰のやや上方、背骨の両側にあるそら豆の形をした左右一対の臓器です。腹膜の後ろにある後腹膜臓器です。 内側のくぼんだ部分を**腎門(じんもん)**といい、腎動脈・腎静脈、尿管などが出入りします。 内部は、外側の**皮質(ひしつ)と内側の髄質(ずいしつ)に分かれています。ここで作られた尿は、中心部の腎盂(じんう)**に集められ、尿管へと送られます。 機能:腎臓は多彩な機能を持ちます。 尿の生成と老廃物の排泄:血液をろ過して尿を作り、体内の老廃物(尿素など)を排出します。 体液の恒常性維持:体内の水分量、電解質バランス、浸透圧、血液のpH(酸塩基平衡)などを一定に保つように尿の量や成分を調節します。 内分泌機能:血圧を調節するレニンや、赤血球の産生を促すエリスロポエチンといったホルモンを生成・分泌します。 3.尿生成の過程について説明できる。 【学習のポイント】 尿が「ろ過 → 再吸収 → 分泌」という3つのステップを経て作られることを理解します。血液から一度大量の原尿を作り、そこから必要なものだけを回収し、不要なものを追加で捨てるという効率的な仕組みを覚えます。 説明 尿は、腎臓の機能的な基本単位であるネフロン(腎小体と尿細管からなる)で生成されます。その過程は、大きく分けて以下の4段階で進みます。 糸球体濾過(ろか):腎小体にある**糸球体(しきゅうたい)**という毛細血管の塊で、血圧によって血液がろ過されます。血球やタンパク質などの大きな成分を除く血漿成分が、ボーマン嚢へと押し出され、原尿(1日に約150L)が作られます。 尿細管での再吸収:原尿が尿細管を通過する過程で、体に必要な水分(約99%)、ブドウ糖、電解質などが血液中へと再吸収されます。 尿細管での分泌:再吸収とは逆に、血液中の不要な物質や薬物などが、尿細管の細胞から尿細管内へと分泌(排泄)されます。 尿の濃縮:集合管を通過する際に、**抗利尿ホルモン(ADH)**の働きで水分がさらに再吸収され、最終的な尿が完成します。 これらの過程を経て、1日に約1.5Lの尿が作られます。 4.尿路を構成する器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 腎臓で作られた尿が体外に排出されるまでの通り道が「尿路」であり、各器官が「運ぶ(尿管)」「溜める(膀胱)」「出す(尿道)」という役割を分担していることを理解します。 説明 尿路は、腎臓で作られた尿を体外へ排出するための通路で、尿管、膀胱、尿道からなります。 尿管:腎盂と膀胱をつなぐ、長さ約25〜28cmの管です。筋肉の蠕動(ぜんどう)運動によって、尿を腎臓から膀胱へと運びます。 膀胱:骨盤内にある袋状の臓器で、尿を一時的に溜めておく役割があります。成人で300〜500mL程度の尿を溜めることができます。 尿道:膀胱に溜まった尿を、体外へ排出するための管です。男性は長く(約16〜18cm)、女性は短い(約3〜4cm)という構造的な違いがあります。 これらの器官が協調して働くことで、尿の輸送、貯蔵(蓄尿)、そして意志による排出(排尿)が可能になります。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 7.消化系

1.消化系を構成する器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 消化器系が、食物の通り道である一本の管「消化管」と、消化を助ける「付属器官」から成り立っていること、そしてその全体的な役割が食物を体内に取り込んで栄養を吸収し、不要なものを排出することであることを理解します。 説明 構成する器官:消化器は、食物が通る管状の消化管と、消化液などを分泌して消化を助ける**実質臓器(付属器官)**から構成されます。 消化管:口から始まり、口腔 → 咽頭 → 食道 → 胃 → 小腸(十二指腸・空腸・回腸) → 大腸(盲腸・結腸・直腸) → 肛門へと続く一本の長い管です。 付属器官:唾液腺、肝臓、胆嚢、膵臓などがあり、消化管に消化液を分泌します。 役割:消化器の主な役割は、摂取した食物を体内で利用できる形に変え、生命活動に必要な栄養素を取り込むことです。具体的には以下のプロセスを担います。 消化:食物を細かく分解すること。 吸収:分解された栄養素や水分を体内に取り込むこと。 排泄:吸収されなかった残りかすを便として体外へ排出すること。 2.口腔の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 口腔が、食物を噛み砕く「物理的消化」と、唾液中の酵素による「化学的消化」が始まる場所であることを理解します。 説明 口腔は消化管の始まりの部分です。 構造:歯、舌、唾液腺、そして口腔と鼻腔を隔てる口蓋からなります。 機能: 歯:食物を噛み砕き(咀嚼)、物理的に細かくします。 舌:食物と唾液を混ぜ合わせ、飲み込みやすい塊(食塊)にし、咽頭へ送り込む働きをします。また、味を感じる味蕾があります。 唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺):唾液を分泌します。唾液には、デンプンを分解する消化酵素アミラーゼが含まれており、化学的消化を開始します。 3.咽頭の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 咽頭が食物と空気の両方が通る「交差点」であり、嚥下(飲み込み)の際には、食物が気管に入らないように交通整理をする重要な役割を持つことを理解します。 説明 構造:咽頭は口腔と食道の間に位置し、鼻腔や喉頭にもつながっています。 機能:空気と食物の両方の通路となっています。食物を飲み込む(嚥下)際には、咽頭の筋肉が収縮し、軟口蓋が持ち上がって鼻腔への逆流を防ぐと同時に、喉頭蓋が気管の入り口を塞ぐことで、食物が気管に入らずスムーズに食道へ送られるように調整します。 4.咀嚼と嚥下について説明できる。 【学習のポイント】 「咀嚼」で食物を消化しやすくし、「嚥下」という複雑な反射運動で安全に食道へ送り込む、という一連の流れを理解します。 説明 咀嚼(そしゃく):摂取した食物を歯で細かく噛み砕き、唾液と混ぜ合わせる運動です。これにより、食物は消化酵素の作用を受けやすくなり、また飲み込みやすい状態になります。 嚥下(えんげ):咀嚼された食物を、口腔から咽頭、食道を経て胃へと送り込む一連の運動です。これは一連の反射運動によって行われ、嚥下の瞬間には、食物が気道に入らないように喉頭蓋が気管を塞ぎ、鼻腔へ逆流しないように軟口蓋が鼻腔を塞ぐなど、協調した動きが起こります。 5.食道、胃、小腸、大腸の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 消化管の各部分が、それぞれ特有の役割(食道:運搬、胃:貯留とタンパク質消化、小腸:主要な消化・吸収、大腸:水分吸収と便の形成)を担っていることを流れに沿って理解します。 説明 食道:咽頭と胃をつなぐ長さ約25cmの筋肉の管です。蠕動(ぜんどう)運動という波のような筋肉の収縮によって、食物を胃へと運びます。 胃:J字型をした袋状の臓器で、食物を一時的に貯留します。強力な酸性の胃液(塩酸とペプシン)を分泌し、食物の殺菌と、主にタンパク質の消化を開始します。蠕動運動によって内容物を粥状にし、少しずつ十二指腸へ送ります。 小腸:胃に続く長さ6〜7mの長い管で、十二指腸・空腸・回腸からなります。膵液や胆汁、腸液といった消化液によって、三大栄養素の本格的な消化が行われます。また、内壁には輪状ヒダや絨毛という無数の突起があり、表面積を広げることで、栄養素の90%以上を吸収する主要な場所となっています。 大腸:小腸に続く長さ約1.5mの管で、盲腸・結腸・直腸からなります。消化機能はほとんどなく、主な働きは、内容物から水分と電解質を吸収し、残りかすを固めて糞便を形成し、一時的に貯留することです。 6.消化、吸収、排泄について説明できる。 【学習のポイント】 食物が体内で利用され、不要物が体外に出されるまでの3つのステップ、「消化(分解)」「吸収(取り込み)」「排泄(排出)」を区別して理解します。 説明 消化:食物に含まれる大きな栄養素(糖質、タンパク質、脂肪など)を、消化酵素の働きによって、体内に吸収できる小さな物質(ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸など)まで分解する過程です。 吸収:消化によって小さくなった栄養素や、水分、ビタミンなどを、主に小腸の壁から体内の血液やリンパ液に取り込む過程です。 排泄:消化・吸収されずに消化管に残った不要な物質(食物繊維など)を、糞便として肛門から体外に排出する過程です。 7.肝臓と胆道系の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 肝臓が「体内の化学工場」として多様な役割(代謝・解毒・胆汁生成など)を持つこと、そして胆道系が肝臓で作られた胆汁を貯蔵・濃縮し、脂肪の消化を助けるために十二指腸へ放出する役割を持つことを理解します。 説明 肝臓:右上腹部にある人体最大の臓器です。非常に多くの重要な機能を担っています。 代謝機能:小腸で吸収された栄養素を、体内で利用しやすい形に処理・貯蔵します。 タンパク質の合成:アルブミンや血液凝固因子など、生命維持に不可欠なタンパク質を合成します。 解毒作用:アルコールや薬物、体内で生じた有害物質を分解し、無毒化します。 胆汁の生成:脂肪の消化・吸収を助ける胆汁を生成します。 胆道系:肝臓で作られた胆汁の通り道(胆管)と、それを一時的に貯蔵・濃縮する袋(胆嚢)からなる系の総称です。食事で脂肪が摂取されると、胆嚢が収縮し、濃縮された胆汁が総胆管を通って十二指腸に分泌されます。 8.門脈の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 門脈が、消化管で吸収された栄養豊富な血液を、全身を巡る前にまず「肝臓」へ運ぶための特別な静脈であることを理解します。 説明 構造:門脈は、胃や小腸・大腸、膵臓、脾臓など、腹部の消化器官からの静脈血を集めて、肝臓に流入する太い静脈です。 機能:消化管で吸収された栄養素(糖質、アミノ酸など)を豊富に含んだ血液を、全身に送る前にまず肝臓に運び込むという重要な役割を担っています。これにより、肝臓は吸収された栄養素を代謝したり、有害物質を解毒したりすることができます。 9.膵臓の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 膵臓が、強力な消化酵素を分泌する「外分泌機能」と、血糖値を調節するホルモンを分泌する「内分泌機能」という、2つの全く異なる重要な機能を持つ臓器であることを理解します。 説明 膵臓は胃の裏側にある細長い臓器で、2つの重要な機能を持ちます。 外分泌機能:三大栄養素(糖質、タンパク質、脂肪)すべてを分解できる強力な消化酵素を含む膵液を生成し、膵管を通して十二指腸へ分泌します。また、膵液はアルカリ性であり、胃から送られてきた酸性の内容物を中和する働きもあります。 内分泌機能:ランゲルハンス島という細胞の集まりから、血糖値を調節するホルモンを血液中に直接分泌します。 インスリン:血糖値を下げる唯一のホルモンです。 グルカゴン:血糖値を上げるホルモンです。 この2つのホルモンの働きにより、血糖値は一定の範囲に保たれています。 10.腹膜と腹腔内臓器の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 腹腔という空間と、その内側を覆う腹膜という薄い膜の存在を理解します。臓器が腹膜に完全に包まれているか(腹膜内臓器)、腹膜の後ろに固定されているか(後腹膜臓器)によって分類されることを覚えます。 説明 腹腔:横隔膜、腹壁、骨盤に囲まれた、腹部の内臓が収まる空間です。 腹膜:腹腔の内壁を覆う壁側腹膜と、臓器の表面を覆う臓側腹膜からなる薄い漿膜です。この2つの膜に囲まれた空間を腹膜腔と呼びます。腹膜は少量の漿液を分泌し、臓器同士がスムーズに動けるように潤滑油の役割を果たしています。 腹膜内臓器と後腹膜臓器: 腹膜内臓器:胃、空腸、回腸、肝臓、脾臓など、大部分が腹膜に覆われていて、腹腔内で比較的自由に動ける臓器です。 後腹膜臓器:十二指腸、膵臓、腎臓など、腹膜腔の後ろ側(背中側)にあり、後腹壁に固定されて動きが少ない臓器です。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 6.循環系

1.循環系を構成する器官とその役割について説明できる。 【学習のポイント】 循環系が血液を全身に巡らせるためのシステムであり、「心臓」「血管」「リンパ管」から構成されること、そして全身を巡る「体循環」と肺を巡る「肺循環」という2つの経路があることを理解します。 説明 構成する器官:循環系は、血液を送り出すポンプである心臓、血液の通り道である動脈・毛細血管・静脈(これらをまとめて血管系と呼びます)、そして体液の回収などに関わるリンパ管から構成されます。 役割:循環系の最も重要な役割は、血液を全身に循環させることで物質を運搬することです。これにより、 全身の組織に酸素や栄養素、ホルモンを供給する。 組織から二酸化炭素や老廃物を回収する。 感染から体を守る白血球や抗体を運ぶ(生体防御)。 体内の水分バランスや体温を維持する(ホメオスターシスの維持)。 といった生命維持に不可欠な機能を担っています。 循環経路:循環系には2つの主要な経路があります。 体循環(大循環):左心室から送り出された酸素を豊富に含む動脈血が、大動脈を通って全身の組織に供給され、組織で酸素を放出した後の静脈血が、大静脈を通って右心房に戻る経路。 肺循環(小循環):右心室から送り出された二酸化炭素を多く含む静脈血が、肺動脈を通って肺に送られ、肺でガス交換を行って酸素化された動脈血が、肺静脈を通って左心房に戻る経路。 2.心臓の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 心臓が4つの部屋と4つの弁を持つ精巧なポンプであることを理解します。血液が逆流することなく一方向に流れるための「弁」の役割と、全身に血液を送り出す「左心室」の壁が特に厚い理由を覚えます。 説明 構造:心臓は握りこぶし大の筋肉でできた中空の臓器で、胸のほぼ中央、左右の肺の間(縦隔)に位置します。 4つの部屋:心臓は右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋に分かれています。右心系(右心房・右心室)は全身から戻ってきた静脈血を肺へ、左心系(左心房・左心室)は肺から戻ってきた動脈血を全身へ送り出します。 4つの弁:各部屋の出口には血液の逆流を防ぐための弁があります。 三尖弁(右心房と右心室の間) 肺動脈弁(右心室と肺動脈の間) 僧帽弁(左心房と左心室の間) 大動脈弁(左心室と大動脈の間) 心臓壁:心臓の壁は心内膜(内層)、心筋(中層)、心膜(外層)の3層からなります。特に、強い圧力で血液を全身に送り出す左心室の心筋は、右心室の約3倍の厚さがあります。 機能:心筋が規則的に収縮と拡張を繰り返すことで、血液を全身に送り出すポンプとして機能します。 3.刺激伝導系と心周期について説明できる。 【学習のポイント】 心臓が自動的に、かつ効率よく拍動するための電気的な仕組み(刺激伝導系)と、1回の拍動における一連の流れ(心周期)を理解します。「ドクン」という心音が弁の閉じる音であることと、心電図の波形が心周期のどのタイミングに対応するのかを関連付けます。 説明 刺激伝導系:心臓の拍動を作り出す電気信号を発生させ、心筋全体に伝える特殊な心筋のネットワークです。 経路:右心房にある洞結節(心臓のペースメーカー)で発生した電気が、房室結節 → ヒス束 → 右脚・左脚 → プルキンエ線維の順に心筋全体に伝わります。これにより、まず心房が収縮し、少し遅れて心室が効率よく収縮します。 心周期:1回の心拍の開始から次の心拍の開始までの一連の動きを指し、収縮期と拡張期に分けられます。 収縮期:心室が収縮し、大動脈と肺動脈へ血液を送り出す時期。I音(ドッ)からII音(クン)までの間です。心電図ではQRS波の始まりからT波の終わり頃までに相当します。 拡張期:心室が拡張し、心房から血液を受け入れる時期。II音から次のI音までの間です。 心音:主に弁が閉鎖する音です。I音は僧帽弁と三尖弁が閉じる音、II音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音です。 4.冠循環の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 心臓自身を養うための専用の血管が「冠動脈」であり、これが詰まると心筋梗塞になることを理解します。また、左心室への血流は主に心臓が休んでいる「拡張期」に行われるという特徴を覚えます。 説明 構造:冠循環(冠状動脈循環)は、心筋に酸素と栄養を供給するための血液循環システムです。大動脈の根元から分岐する左右2本の冠動脈が、心臓の表面を冠のように取り巻いています。 右冠動脈:主に右心室や右心房、洞結節などを栄養します。 左冠動脈:すぐに前下行枝と回旋枝に分かれ、主に左心室や左心房を栄養します。 機能:絶えず拍動する心筋に血液を供給します。特徴として、左心室の壁を養う冠動脈への血流は、心室が収縮している収縮期には心筋の圧力で圧迫されるため少なく、心室が拡張している拡張期に主に流れます。この冠動脈が動脈硬化などで狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞を引き起こします。 5.心臓のポンプ機能に関係する因子について説明できる。 【学習のポイント】 心臓が1回の拍動で送り出す血液量(1回拍出量)が、「前負荷」「後負荷」「心収縮力」という3つの要素によって決まることを理解します。 説明 心臓のポンプ機能、すなわち1回の収縮でどれだけの血液を送り出せるか(1回拍出量)は、主に以下の3つの因子によって決まります。 前負荷(ぜんふか):心室が収縮する直前に、どれだけ血液で満たされているか(引き伸ばされているか)の度合い。静脈から心臓に戻ってくる血液量が多いほど前負荷は増大します。 後負荷(こうふか):心室が血液を送り出す際に打ち勝たなければならない抵抗のこと。主に、血圧の高さや動脈弁の狭さなどによって決まります。 心収縮力:心筋そのものが収縮する力の強さ。 一般に、前負荷と心収縮力が大きく、後負荷が小さいほど、1回拍出量は増加します。 6.心機能曲線について説明できる。 【学習のポイント】 心臓には「血液が多く戻ってくる(前負荷が増える)ほど、より強く収縮して多くの血液を送り出す」という性質(スターリングの法則)があり、それをグラフにしたものが心機能曲線であることを理解します。 説明 心機能曲線(スターリング曲線)は、心臓のポンプ機能の状態を示すグラフです。 グラフの意味:横軸に前負荷(心室の拡張末期の容量や圧)、縦軸に心拍出量(または1回拍出量)をとります。 曲線の形:正常な心臓では、前負荷が増えるにつれて心拍出量も増えるという右上がりの曲線を描きます。これは、心筋がゴムのように、引き伸ばされるほど強く収縮する性質(スターリングの法則)があるためです。 臨床的意義:心不全などで心機能が低下すると、この曲線の傾きが緩やかになります。つまり、同じだけ前負荷が増えても心拍出量の増加が少なくなり、ポンプとしての効率が悪化していることを示します。 7.心拍出量に影響する要素をあげ、説明できる。 【学習のポイント】 1分間に心臓が送り出す総血液量(心拍出量)は、「1回の拍出量」と「心拍数」の掛け算で決まることを理解し、その4つの基本要素を覚えます。 説明 心拍出量とは、心臓が1分間に送り出す血液の総量のことです。これは「心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数」という式で表されます。したがって、心拍出量に影響する要素は、以下の4つです。 前負荷:心臓に戻る血液量。増えれば1回拍出量が増加します。 後負荷:血液を送り出す際の抵抗。増えれば1回拍出量が減少します。 心収縮力:心筋の収縮力。強まれば1回拍出量が増加します。 心拍数:1分間の心臓の拍動回数。増えれば心拍出量が増加します(ただし、極端な頻脈では逆に減少します)。 生体は、必要に応じてこれら4つの要素を調整することで、心拍出量をコントロールしています。 8.血管の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 血管を「動脈」「毛細血管」「静脈」の3種類に分け、それぞれの構造(壁の厚さや弁の有無など)の違いが、機能(高圧に耐える、物質交換をする、血液を貯留するなど)の違いと直結していることを理解します。 説明 動脈:心臓から送り出された血液を運ぶ血管です。 構造:高い血圧に耐えられるよう、壁が厚く弾力性に富んでいます。 機能:心臓の拍動に合わせて拡張・収縮し、血流をスムーズに保ちます。末梢の細動脈は、収縮・拡張することで血圧や各臓器への血流を調節する抵抗血管としての役割を持ちます。 静脈:全身の血液を心臓へ戻す血管です。 構造:動脈に比べて壁が薄く、伸展しやすい性質があります。四肢の静脈には、血液の逆流を防ぐための弁があります。 機能:血液を大量に溜めることができるため、容量血管(血液の貯蔵庫)とも呼ばれます。骨格筋の収縮(筋ポンプ)や呼吸運動(呼吸ポンプ)が、血液の還流を助けています。 毛細血管:動脈と静脈をつなぐ、網の目状の極めて細い血管です。 構造:壁は内皮細胞一層のみで非常に薄くできています。 機能:血液と組織細胞との間で、酸素、二酸化炭素、栄養素、老廃物などの物質交換を行う場です。 9.リンパ管の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 リンパ系が、血管から漏れ出た組織液を回収して血液に戻す「下水道」のような役割と、細菌などをチェックする「関所(リンパ節)」の役割を持っていることを理解します。 説明 構造:リンパ管は、組織の隙間で始まる毛細リンパ管に始まり、それらが合流して次第に太くなり、最終的には首の付け根で静脈に合流する、一方通行の管です。途中にはリンパ節という関所のような構造が多数あります。 機能: 体液の回収:毛細血管から組織に染み出た組織液(血漿成分の一部)のうち、静脈に回収されなかった余分な水分やタンパク質を回収し、リンパ液として心臓へ戻します。 免疫機能:組織に侵入した細菌や異物などをリンパ液とともに回収し、リンパ節でフィルターにかけて処理する生体防御の役割を担います。 脂肪の吸収:小腸で吸収された脂肪の一部は、リンパ管を通って運ばれます。 10.循環の三要素について説明できる。 【学習のポイント】 安定した循環(血圧の維持)は、「ポンプ」「パイプ」「液体」という3つの要素が正常に機能することで成り立っている、という基本的な概念を理解します。 説明 循環を維持し、血圧を保つためには、以下の3つの要素が不可欠であり、これらを循環の三要素と呼びます。 心臓(ポンプ機能):血液を全身に送り出すポンプとしての働き。心収縮力がこれにあたります。 血管(末梢血管抵抗):血液の通り道としての役割と、その太さを変えることによる抵抗の調節機能。 血液(循環血液量):血管内を流れる液体の量。 これらのうち、どれか一つでも異常をきたすと、血圧の維持が困難になり、ショックなどの重篤な状態に陥ります。 11.平均動脈圧、心拍出量、末梢血管抵抗の関係について説明できる。 【学習のポイント】 血圧が、心臓が送り出す血液の「量」と、血管の「流れにくさ」の掛け算で決まる、という物理的な関係を数式で理解します。 説明 平均動脈圧(血圧の平均値)、心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液量)、全末梢血管抵抗(全身の血管の血液の流れにくさ)の間には、以下の関係式が成り立ちます。 平均動脈圧 = 心拍出量 × 全末梢血管抵抗 この式は、循環の基本原理を示しています。 心拍出量が増加するか、末梢血管抵抗が増加(血管が収縮)すると、血圧は上昇します。 心拍出量が減少するか、末梢血管抵抗が減少(血管が拡張)すると、血圧は低下します。 生体は、心拍出量や末梢血管抵抗を変化させることで、平均動脈圧を一定の範囲に保っています。 12.自律神経系による循環の制御について説明できる。 【学習のポイント】 自律神経(交感神経と副交感神経)が、心臓と血管に作用して、血圧などを「素早く」調節している仕組みを理解します。特に、交感神経が「アクセル」、副交感神経が「ブレーキ」の役割を担っていることを覚えます。 説明 自律神経系は、心拍出量と末梢血管抵抗を変化させることで、循環を迅速に制御しています。 交感神経(活動・緊張時に優位): 心臓に対して:心拍数を増加させ、心収縮力を強めます(心拍出量の増加)。 血管に対して:ほとんどの血管を収縮させます(末梢血管抵抗の増加)。 これらの作用により、血圧を上昇させます。 副交感神経(安静・リラックス時に優位): 心臓に対して:主に心拍数を減少させます(心拍出量の減少)。 血管への作用は限定的です。 これらの作用により、血圧を低下させます。 圧受容器反射:血圧の急な変動(例:急に立ち上がる)が起こると、頸動脈洞や大動脈弓にある圧受容器がそれを感知し、自律神経を介して心臓や血管の働きを調節し、血圧を元に戻そうとする反射機構が働きます。 13.内分泌系による循環の制御について説明できる。 【学習のポイント】 ホルモンが、主に血液量や血管の収縮度合いを調節することで、自律神経よりも「ゆっくり」と、しかし「持続的」に循環を制御していることを理解します。 説明 内分泌系は、各種ホルモンを血中に分泌することで、主に体液量(循環血液量)を調節し、時間をかけて循環を制御します。 血圧を上昇させるホルモン カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン):副腎髄質から分泌され、交感神経の働きを補強し、心拍数や心収縮力を高め、血管を収縮させます。 レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系:血圧が低下すると腎臓からレニンが分泌され、最終的に生成されるアンギオテンシンⅡが強力に血管を収縮させます。また、副腎皮質からアルドステロンの分泌を促し、体内にナトリウムと水分を保持させて循環血液量を増やします。 バソプレシン(抗利尿ホルモン):下垂体後葉から分泌され、腎臓での水の再吸収を促して循環血液量を増やします。 血圧を低下させるホルモン 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP):心房から分泌され、血管を拡張させるとともに、腎臓からのナトリウムと水分の排泄を促して循環血液量を減らします。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 5.呼吸系

1.呼吸系の役割を内呼吸と外呼吸に分け説明できる。 【学習のポイント】 呼吸におけるガス交換が「肺」と「組織」という2つの場所で行われることを理解し、それぞれを外呼吸と内呼吸として区別します。 説明 呼吸系の役割は、生命活動に必要な酸素を体内に取り込み、代謝によって生じた二酸化炭素を体外に排出することです。このガス交換は、行われる場所によって2つに分けられます。 外呼吸(肺呼吸):肺で行われるガス交換です。呼吸運動によって吸い込んだ空気(中の酸素)を肺胞から血液中に取り込み、同時に血液中の二酸化炭素を肺胞へ放出して呼気として体外へ排出する過程を指します。 内呼吸(組織呼吸):全身の組織で行われるガス交換です。血液によって運ばれてきた酸素を組織の細胞に供給し、細胞の活動によって生じた二酸化炭素を血液が受け取る過程を指します。 2.鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、気管・気管支の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 空気が肺に達するまでの通り道である「気道」を構成する各器官の名称と位置関係、そしてそれぞれの果たしている役割(空気の清浄化、加温・加湿、発声、誤嚥防止など)を理解します。 説明 鼻腔:呼吸の入り口で、吸気を加温・加湿する機能や、鼻毛や粘膜で異物を除去するフィルターの役割があります。においを感じる嗅覚器でもあります。 口腔:鼻腔と同様に空気の通り道となりますが、加温・加湿機能は鼻腔に劣ります。 咽頭:鼻腔と口腔の奥にあり、食道と喉頭につながる部分です。空気と食物の両方が通る共通の通路です。 喉頭:咽頭の下にあり、気管につながります。内部には声帯があり発声機能を持ちます。また、入り口にある喉頭蓋は、食物を飲み込む際に反射的に気道の入り口を塞ぎ、食物が気管に入る(誤嚥)のを防ぐ重要な役割を担います。 気管・気管支:喉頭から続く1本の管が気管で、左右の肺へ向かう2本の主気管支に分岐します。気管支は肺の中でさらに細かく枝分かれを繰り返します。U字型の軟骨によって常に内腔が開いた状態に保たれており、空気の通り道を確保しています。右主気管支は左に比べて太く、短く、分岐する角度が急なため、誤嚥した異物や気管チューブが入りやすい特徴があります。 3.小児の気道の構造と特徴について説明できる。 【学習のポイント】 小児の気道は成人と比べて小さく、解剖学的にいくつかの特徴があるため、気道閉塞を起こしやすいことを理解します。 説明 小児の気道(8歳頃まで)には、成人と異なる以下のような特徴があります。 頭部:体格に比して大きく、首が屈曲しやすいため、舌根沈下による気道閉塞が起こりやすいです。 舌:口腔の容積に対して舌の占める割合が大きく、これも舌根沈下を起こしやすい要因です。 鼻呼吸:1歳頃までは主に鼻で呼吸するため、鼻閉が呼吸困難の原因になります。 喉頭:成人に比べて高い位置(喉側)にあり、前方に傾いています。 喉頭蓋:相対的に長く、硬くてしなやかさがないため、気道を観察しにくいことがあります。 気管・気管支:全体的に細く、粘膜が腫れると内腔が著しく狭くなりやすいです。 4.換気に関する胸郭、呼吸筋の役割について説明できる。 【学習のポイント】 呼吸運動が、胸郭という「容器」を呼吸筋という「筋肉」が動かすことによって行われる仕組みを理解します。特に、吸気が筋肉の収縮による能動的な運動であるのに対し、安静時の呼気は筋肉が弛緩する受動的な運動であることを区別します。 説明 胸郭:12対の肋骨、胸骨、12個の胸椎で構成されるカゴ状の骨格で、内部の心臓や肺を保護しています。 呼吸筋:胸郭を動かして換気を行う筋肉です。 主な呼吸筋:横隔膜と外肋間筋です。 吸気:横隔膜が収縮して下がり、外肋間筋が収縮して肋骨と胸骨を引き上げることで胸郭の容積が増大します。これにより胸腔内が陰圧となり、肺が拡張して空気が流れ込みます。吸気は筋肉の収縮による能動的な運動です。 呼気:安静時の呼気は、横隔膜と外肋間筋が弛緩し、胸郭が元の大きさに戻ることで肺が自然に収縮し、空気が押し出される受動的な運動です。 5.呼吸補助筋について説明できる。 【学習のポイント】 平常時ではなく、努力して呼吸するときに使われる筋肉が呼吸補助筋であり、その観察が呼吸状態の評価に重要であることを理解します。 説明 呼吸補助筋は、安静時の呼吸ではあまり使われませんが、運動時や呼吸困難時など、努力して呼吸を行う際に使われる筋肉です。 努力吸気時:通常の呼吸筋に加えて、首の胸鎖乳突筋や斜角筋群などが働き、胸郭をさらに大きく引き上げて吸気を助けます。 努力呼気時:咳をするときなど、強く息を吐き出す際には、内肋間筋や腹部の筋肉(腹直筋などの腹筋群)が収縮し、胸郭を積極的に縮小させて呼気を助けます。 傷病者の観察において、これらの呼吸補助筋が使われている場合は、呼吸困難に陥っている徴候と判断できます。 6.肺の構造について説明できる。 【学習のポイント】 肺の巨視的な構造(右3葉、左2葉)と、ガス交換の場である微視的な構造(肺胞)の両方を理解します。特に肺胞が極めて薄い壁と豊富な毛細血管網を持つことで、効率的なガス交換を可能にしている点が重要です。 説明 肺は縦隔を挟んで左右に1つずつあり、右肺は上葉・中葉・下葉の3つに、左肺は上葉・下葉の2つに分かれています。 肺は円錐形で、上端を肺尖、横隔膜に接する下面を肺底といいます。 気管支が枝分かれを繰り返した末端には、肺胞と呼ばれるブドウの房のような小さな袋が多数(約3億個)存在します。この肺胞がガス交換の実際の場となります。 肺胞の壁は非常に薄い細胞(I型肺胞上皮細胞)でできており、その周囲は肺毛細血管が網の目のようにびっしりと取り巻いています。 肺胞の内面は、肺胞が虚脱するのを防ぐサーファクタントという物質(II型肺胞上皮細胞から分泌)で覆われています。 7.肺でのガス交換の仕組みを、換気、血流の関係から説明できる。 【学習のポイント】 ガス交換の原動力が、酸素と二酸化炭素の「分圧の差」であり、ガスは分圧の高い方から低い方へと移動する物理現象(拡散)であることを理解します。 説明 肺でのガス交換は、肺胞内の空気と毛細血管の血液との間の分圧の差に従った拡散によって行われます。 酸素(O₂)の移動:肺胞内の空気の酸素分圧(約100mmHg)は、肺に流れてきた静脈血の酸素分圧(約40mmHg)よりも高いため、酸素は肺胞から血液へと移動します。 二酸化炭素(CO₂)の移動:静脈血の二酸化炭素分圧(約46mmHg)は、肺胞内の空気の二酸化炭素分圧(約40mmHg)よりも高いため、二酸化炭素は血液から肺胞へと移動します。 このガス交換が効率よく行われるためには、肺胞に新鮮な空気が送り込まれる換気と、肺胞の周りに血液が十分に流れる血流の両方のバランスが重要です。このバランスは換気血流比で示されます。 8.体内での酸素運搬について説明できる。 【学習のポイント】 血液中の酸素の大部分は赤血球内のヘモグロビンと結合して運ばれることと、ヘモグロビンが酸素分圧に応じて酸素と結合したり離れたりする性質(酸素解離曲線)を理解します。 説明 肺で血液中に取り込まれた酸素は、2つの形で全身に運ばれます。 ごく一部は、血液の液体成分である血漿に溶解して運ばれます。 大部分(約98%)は、赤血球の中にあるヘモグロビン(Hb)と結合して運ばれます。 ヘモグロビンと酸素の結合のしやすさは、酸素分圧によって変化し、その関係は酸素解離曲線というS字状のカーブで表されます。 肺(酸素分圧が高い):ヘモグロビンは酸素と結合しやすい状態になり、効率よく酸素を取り込みます。 組織(酸素分圧が低い):ヘモグロビンは酸素を解離(放出)しやすい状態になり、効率よく組織に酸素を供給します。 9.呼吸調節の仕組みについて説明できる。 【学習のポイント】 呼吸は普段、脳幹にある呼吸中枢によって無意識に調節されており、その主なきっかけは血液中の「二酸化炭素濃度の上昇」であることを理解します。 説明 呼吸運動は、意志によってもある程度コントロールできますが、基本的には脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢によって**無意識的(不随意的)**に調節されています。 呼吸中枢の働きを調節する主な要因は、**血液中の二酸化炭素分圧(PaCO₂)**です。 PaCO₂が上昇すると、それが脳の中枢化学受容体を刺激し、呼吸中枢が「もっと呼吸をしろ」という指令を出し、換気が促進されます。 また、頸動脈や大動脈弓にある末梢化学受容体は、主に**動脈血中の酸素分圧の低下(低酸素血症)**を感知して呼吸を促進させます。 平常時の呼吸調節は主に二酸化炭素分圧によって行われ、酸素分圧の低下による調節は、より強い低酸素状態にならないと働きません。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 4.感覚系

1.主な5種類の感覚をあげることができる。 【学習のポイント】 ヒトが持つ感覚を5つに分類し、その中でも特定の器官で感じる「特殊感覚」と、身体全体で感じる「体性感覚」の違いを理解します。 説明 ヒトがとらえる主な感覚は、視覚、平衡感覚・聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚(皮膚感覚など)の5種類で、古くから五感と呼ばれてきました。 このうち、目、耳、鼻、舌といった特定の器官にある受容器で感じる視覚、聴覚・平衡感覚、嗅覚、味覚の4つは特殊感覚と呼ばれます。 これに対し、皮膚などを中心に身体の広い範囲で認識される感覚が体性感覚です。 2.感覚系の概要について説明できる。 【学習のポイント】 「感覚」が成立するまでの流れ、つまり刺激が感覚器で受容され、神経を通って脳で認識されるまでの一連のプロセスを理解します。 説明 感覚とは、外界や体内の様々な刺激(物理的・化学的)が生体内で神経の信号に変換され、神経の伝導路を通じて中枢神経系に伝わることを指します。 これらの刺激を受け取る器官を感覚器といい、感覚器全体をまとめて感覚系と呼びます。 感覚系の役割は、生体が活動するのに必要な情報を中枢神経系に伝えるための「入力装置」として働くことです。中枢神経系(特に大脳)がその情報を統合・処理することで、私たちは初めて「見える」「聞こえる」といった感覚として認識します。 3.視覚の解剖と機能について説明できる。 【学習のポイント】 眼球がカメラのような構造(レンズとしての水晶体、フィルムとしての網膜)を持っていることを理解し、各部分の名称と役割を覚えます。 説明 構造(解剖) 視覚器は、光を感じる眼球と、それを保護したり動かしたりする副眼器(眼瞼、結膜、涙器、外眼筋など)からなります。 眼球は、外側から外膜(透明な角膜と白い強膜)、中膜(血管に富む脈絡膜、光の量を調節する虹彩、ピントを合わせる毛様体)、内膜(光を感じる網膜)の3層構造になっています。 眼球の内部は、ピント調節を行うレンズの役割をする水晶体と、眼球の形を保つゼリー状の硝子体などで満たされています。 虹彩の中心にある瞳孔は、虹彩内の瞳孔括約筋(副交感神経で収縮)と瞳孔散大筋(交感神経で収縮)の働きによって大きさが変わり、眼に入る光の量を調節します。 機能 角膜から入った光は、瞳孔、水晶体、硝子体を通って、眼球の最も内側にある網膜に像を結びます。 網膜にある光受容細胞が光の刺激を電気信号に変換し、その情報が視神経を通じて脳へと送られます。 4.視覚路について説明できる。 【学習のポイント】 左右の眼から入った情報が、脳の後ろにある後頭葉に届くまでの神経の通り道(視覚路)と、その途中にある「視交叉」という特徴的な構造を理解します。 説明 視覚路とは、網膜で受け取った視覚情報が、最終的に大脳皮質の視覚野に達するまでの神経の経路のことです。 その経路は以下の通りです。 網膜で感知された刺激は、視神経に集まります。 左右の視神経は頭蓋内に入り、視交叉という部分で合流します。 視交叉では、両眼の網膜の内側(鼻側)半分の視野を担当する神経線維だけが反対側に交叉します(外側半分の線維は交叉しない)。 視交叉から後ろは視索となり、間脳の**視床(外側膝状体)**で中継されます。 視床から出た神経線維(視放線)が、後頭葉にある**視皮質(視覚野)**に到達し、ここで初めて「見えた」と認識されます。 5.聴覚と平衡感覚器の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 耳が音を聞く「聴覚」と、体のバランスをとる「平衡感覚」という2つの機能を持っていることを理解し、それぞれの機能を担う部分(蝸牛と前庭・半規管)を区別して覚えます。 説明 聴覚器 構造:耳は外耳、中耳、内耳の3つの部分からなります。 機能:音波(空気の振動)は外耳道を通って鼓膜を振動させます。その振動は中耳にある耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)によって増幅され、内耳に伝わります。内耳にあるカタツムリのような形をした蝸牛の中にはリンパ液が入っており、その振動をコルチ器官にある有毛細胞が感知して電気信号に変え、蝸牛神経を通じて脳に伝えます。 平衡感覚器 構造:内耳にある前庭と三半規管が平衡感覚を担います。 機能: 前庭:内部にある耳石器が、体の傾きや直線的な加速度(エレベーターの上下など)を感知します。 三半規管:3つの半円形の管からなり、体の回転(頭を回すなど)を感知します。 これらの情報は前庭神経を通じて脳に送られ、姿勢の維持やバランス調整に役立てられます。 6.嗅覚の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 においを感じる場所が鼻の奥の上部にあること、そしてそれが化学物質を感知する仕組みであることを理解します。 説明 構造:嗅覚の受容器は、鼻腔の天井部分にある嗅粘膜に存在します。 機能:空気中に漂うにおい物質(化学物質)が嗅粘膜に付着すると、そこにある嗅細胞が刺激されます。この刺激が電気信号に変換され、嗅神経を通じて脳に伝わることで「におい」として認識されます。 7.味覚の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 味を感じる受容器が舌の「味蕾」であること、そして味覚も嗅覚と同様に化学物質を感知する化学感覚であることを理解します。 説明 構造:味覚の受容器は、主に舌の表面にある**味蕾(みらい)**という小さな器官です。味蕾は、舌の表面のざらざらした隆起(乳頭)に多数存在します。 機能:食物に含まれる味物質(化学物質)が唾液に溶けて味蕾の中にある味細胞に接触すると、刺激が電気信号に変換され、神経を通じて脳に伝わり「味」として認識されます。味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本味があります。 8.体性感覚の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 体性感覚が、皮膚で感じる「表在感覚」と、筋肉や関節で感じる「深部感覚」に大別されることを理解します。 説明 体性感覚は、身体に加わる様々な物理的・化学的な刺激を検出する感覚の総称です。 表在感覚:一般に「皮膚感覚」と呼ばれ、皮膚や粘膜で感じる感覚です。触覚、圧覚、痛覚、温度覚などがあります。これらの刺激は、皮膚にある自由神経終末や様々な機械受容器で受容されます。 深部感覚:筋肉、腱、関節などで生じる感覚で、自分の体の各部分がどのような位置にあるか(位置覚)、どのように動いているか(運動覚)などを認識する感覚です。

第Ⅱ編第1章人体の構造と機能 3.神経系

1.神経系の構成と役割について説明できる。 【学習のポイント】 神経系が「中枢」と「末梢」に大別され、それぞれがさらに細かい区分に分かれていること、そして全体として身体内外の情報を統合し、適切な反応を引き起こす司令塔の役割を担っていることを理解します。(参照:P67-68) 説明 構成 神経系は、中枢神経系と末梢神経系の2つに大きく分けられます。 中枢神経系:骨(頭蓋骨、脊柱)に保護されており、脳と脊髄からなります。脳はさらに大脳、間脳、小脳、脳幹(中脳、橋、延髄)に区分されます。 末梢神経系:中枢神経系から出て全身に分布する神経で、脳から出る12対の脳神経と、脊髄から出る31対の脊髄神経があります。 機能的には、意識的な活動に関わる体性神経系(運動神経、感覚神経)と、無意識的な生命活動の調節に関わる自律神経系(交感神経、副交感神経)に分類されます。 役割 神経系は、身体の各器官が協調して働き、個体としてまとまった活動ができるように統合・調節する役割を担っています。 主な働きは以下の3つです。 皮膚や諸器官(受容器)で受け取った内外の刺激を中枢に伝える(入力)。 伝えられた情報を統合・判断し、適切な命令を発する(情報処理)。 命令を筋肉や腺(効果器)に伝え、反応を引き起こす(出力)。 このようにして、外界の状況に適応したり、体内の環境を一定に保ったりする(神経性調節)ことが、神経系の最も重要な役割です。 2.神経細胞の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 神経系の基本単位である神経細胞(ニューロン)の形と、情報がどのように伝わっていくのか(シナプス伝達)を理解します。(参照:P67, 69) 説明 構造 神経系を構成する主な細胞は**神経細胞(ニューロン)と、それを支える神経膠細胞(グリア細胞)**です。 神経細胞は、核のある神経細胞体、他の細胞からの情報を受け取る多数の樹状突起、他の細胞へ情報を伝える1本の長い軸索から構成されます。 中枢神経では、神経細胞体の集まりを灰白質、神経線維(軸索)の集まりを白質と呼びます。 機能 神経細胞の主な機能は、興奮の伝達です。情報は「樹状突起 → 神経細胞体 → 軸索」という一方向へ流れます。 神経細胞間の情報の受け渡しは、シナプスと呼ばれる接合部で行われます。 シナプスでは、軸索の末端から神経伝達物質(アセチルコリン、ノルアドレナリンなど)が放出され、次の神経細胞の樹状突起にある受容体に結合することで情報が伝達されます。これをシナプス伝達といい、一方向性という特徴があります。 3.脳の各部の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 脳を構成する大脳、間脳、小脳、脳幹のそれぞれの位置と、担っている大まかな役割を整理して覚えます。(参照:P70-72) 説明 大脳 構造:脳の大部分を占め、左右の大脳半球に分かれています。表面は大脳皮質(灰白質)、内部は大脳髄質(白質)と大脳基底核からなります。深い溝によって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられます。 機能:思考、記憶、言語、感情などの高次精神機能や、随意運動、感覚などを司る中枢です。 間脳 構造:大脳と中脳の間にあり、視床と視床下部からなります。 機能: 視床:嗅覚を除く全ての感覚情報が、大脳皮質へ送られる前の中継点です。意識の維持にも関与します。 視床下部:自律神経系の中枢であり、体温、食欲、水分摂取、ホルモン分泌などを調節し、生命維持に不可欠な機能を担います。 小脳 構造:橋と延髄の背側に位置し、左右の小脳半球と中央の小脳虫部からなります。 機能:運動の調節、身体の平衡感覚、姿勢の維持など、運動をスムーズに行うための重要な役割を担っています。 脳幹 構造:中脳、橋、延髄を合わせた部分で、間脳の下、脊髄の上につながります。 機能: 呼吸、循環、意識など、生命維持に不可欠な中枢が存在します。 大脳と脊髄や小脳を結ぶ、運動・感覚の重要な神経線維(伝導路)が通ります。 12対の脳神経のうち10対の神経核(神経細胞体の集まり)が存在します。 4.大脳皮質の主な中枢とそれぞれの位置と機能について説明できる。 【学習のポイント】 大脳皮質には機能ごとに場所が決まっている部分(機能局在)があります。どの葉にどの機能の中枢があるのかを対応させて覚えることが重要です。(参照:P70-71) 説明 大脳皮質の各領域は、特定の機能を担っています。 運動野(領):前頭葉にあり、中心溝の前に位置します。手足などを意のままに動かす随意運動の命令を出します。 感覚野(領):頭頂葉にあり、中心溝の後ろに位置します。身体の各部からの痛み、温度、触覚などの情報を受け取ります。 視覚野(領):後頭葉にあり、目から入った視覚情報を受け取り、映像として認識します。 聴覚野(領):側頭葉にあり、耳から入った聴覚情報を受け取り、音として認識します。 言語中枢:多くは左大脳半球に存在します。 運動性言語野(ブローカ野):前頭葉にあり、「話す」ことに関わります。 感覚性言語野(ウェルニッケ野):側頭葉にあり、「言葉を理解する」ことに関わります。 連合野:上記の専門領域以外の広い部分で、各領域からの情報を統合し、思考、判断、記憶などのより高度な精神活動を担います。 5.脊髄の構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 脊髄は脳と末梢をつなぐ中継路であると同時に、それ自体が反射の中枢でもあるという二つの側面を理解します。断面図での灰白質と白質の配置も重要です。(参照:P72) 説明 構造 脊髄は延髄に続き、脊柱の中にある脊柱管を通っています。 断面を見ると、中心部に蝶が羽を広げたような形の灰白質があり、その周囲を白質が取り囲んでいます。 灰白質:神経細胞体が集まる部分で、運動神経細胞が集まる前角、感覚神経細胞が集まる後角などに分かれます。 白質:神経線維が集まる部分で、脳と脊髄の間を上り下りする情報の伝導路となっています。 脊髄からは、運動神経線維が出る前根と、感覚神経線維が入る後根が出ており、これらが合流して1本の脊髄神経となります。 機能 伝導路としての機能:脳からの運動の命令を筋肉に伝え、身体各部からの感覚情報を脳に伝える中継役を果たします。 反射の中枢としての機能:脳を介さずに、刺激に対して直接的に反応を起こす脊髄反射(例:膝蓋腱反射)の中枢となります。 6.脳室系と髄膜、脳脊髄液それぞれの構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 脳と脊髄は、髄膜という袋と、その中を満たす脳脊髄液によって、二重三重に保護されています。これらの構造と、脳脊髄液の産生から吸収までの流れを理解します。(参照:P72-73) 説明 髄膜 構造:脳と脊髄を覆う3層の膜で、外側から硬膜、くも膜、軟膜の順になっています。 機能:中枢神経を物理的な衝撃から保護します。硬膜とくも膜の間には硬膜下腔、くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔というスペースがあります。 脳脊髄液(髄液) 構造:くも膜下腔と、脳の内部にある脳室(側脳室、第三脳室、第四脳室)を満たしている無色透明の液体です。 機能:水に浮かせるようにして脳と脊髄を衝撃から保護するクッションの役割を果たします。脳室にある脈絡叢で1日に約500mL産生され、循環した後にくも膜顆粒などから静脈へ吸収されます。 脳室系 構造:脳の内部にある一連の空間で、左右の側脳室、第三脳室、第四脳室からなります。これらは互いに連絡し、脳脊髄液の通り道となっています。 機能:脳脊髄液を産生・循環させることで、脳の保護に関与します。 7.脳神経系それぞれの構造と機能について説明できる。 【学習のポイント】 12対ある脳神経の番号、名称、そしてそれぞれの主な機能をセットで覚えることが重要です。特に、眼球運動に関わる神経(III, IV, VI)や、顔面の感覚・運動を支配する神経(V, VII)、自律神経成分を含む神経(III, VII, IX, X)は頻出です。(参照:P74-76) 説明 脳から直接出入りする12対の末梢神経で、主に頭頸部の機能に関与します。 第I脳神経(嗅神経):嗅覚(感覚) 第II脳神経(視神経):視覚(感覚) 第III脳神経(動眼神経):眼球運動(上・下・内直筋、下斜筋)、まぶたを上げる、瞳孔の収縮(副交感神経) 第IV脳神経(滑車神経):眼球運動(上斜筋) 第V脳神経(三叉神経):顔面の感覚(痛覚、触覚)、咀嚼筋の運動 第VI脳神経(外転神経):眼球運動(外直筋) 第VII脳神経(顔面神経):顔の表情を作る筋肉の運動、舌の前2/3の味覚、涙や唾液の分泌(副交感神経) 第VIII脳神経(内耳神経):聴覚と平衡感覚(感覚) 第IX脳神経(舌咽神経):舌の後ろ1/3の味覚、嚥下運動、唾液の分泌(副交感神経) 第X脳神経(迷走神経):発声、嚥下運動、胸部・腹部の多くの内臓の働きを調節する(副交感神経) 第XI脳神経(副神経):首を回す、肩をすくめる筋肉(胸鎖乳突筋、僧帽筋)の運動 第XII脳神経(舌下神経):舌の運動 8.運動の伝導路について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 自分の意志で身体を動かす(随意運動)ための命令が、大脳皮質から筋肉までどのように伝わるのか、その主要な経路である「錐体路」の流れを理解します。(参照:P77) 説明 運動の命令は、大脳皮質から骨格筋へ特定の神経経路(伝導路)を通って伝えられます。 皮質脊髄路(錐体路) 随意運動を司る最も重要な伝導路です。 経路:大脳皮質の運動野から出た神経線維は、脳幹を下り、延髄の錐体という部分でその大部分が反対側へ交叉します。その後、脊髄の白質(側索)を下行し、目的の高さの脊髄灰白質(前角)で次の神経細胞に乗り換え、脊髄神経となって筋肉に到達します。 右脳が左半身を、左脳が右半身を支配するのは、この錐体交叉のためです。 錐体外路系 錐体路以外の運動に関する伝導路の総称で、運動の円滑さや姿勢の保持などの無意識的な調節に関与しています。 9.感覚の伝導路について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 身体の各部で感じた情報が、脊髄を通って脳の感覚野までどのように伝わるのか、感覚の種類によって通るルートが異なることを理解します。(参照:P77) 説明 末梢の受容器で受け取った感覚情報は、特定の伝導路を通って大脳皮質の感覚野へ伝えられます。 外側脊髄視床路 機能:痛覚と温度覚を伝えます。 経路:皮膚などからの感覚情報は、脊髄神経を通って脊髄の後角に入り、すぐに反対側へ交叉します。その後、脊髄の白質(側索)を上行し、視床で中継され、大脳皮質の感覚野に到達します。 後索-内側毛帯路 機能:触覚(識別性の高いもの)や、手足の位置などを感じる深部感覚を伝えます。 経路:感覚情報は脊髄に入った後、交叉せずに同側の白質(後索)を上行し、延髄で初めて反対側へ交叉します。その後、視床を経て感覚野に到達します。 10.自律神経系それぞれの構造と主な臓器に及ぼす作用について説明できる。 【学習のポイント】 アクセル役の「交感神経」とブレーキ役の「副交感神経」が、互いにバランスを取りながら内臓の働きを調節していることを理解します。それぞれの神経が優位になったときの身体の状態をイメージできることが重要です。(参照:P78, 106-107) 説明 自律神経系は、意志とは無関係に働く神経系で、内臓の機能や体温、血圧などを自動的に調節しています。交感神経系と副交感神経系からなり、多くの器官は両者による二重支配を受け、互いに拮抗的に(逆の)作用を及ぼします。 交感神経系 構造:神経線維は胸髄と腰髄から出ています。 作用:身体が活動的・緊張・興奮状態のときに優位になります。「闘争か逃走か」の神経とも呼ばれます。 心臓:心拍数増加、心収縮力増強 血管:収縮(血圧上昇) 気管支:拡張 消化器:運動や分泌を抑制 瞳孔:散大(開く) 副交感神経系 構造:神経線維は脳幹(動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経)と仙髄から出ています。 作用:身体がリラックス・安静状態のときに優位になります。消化や休息を促します。 心臓:心拍数減少 気管支:収縮 消化器:運動や分泌を促進 瞳孔:縮瞳(閉じる) 11.脳循環について簡単に説明できる。 【学習のポイント】 脳への血液供給が、前方からの「内頸動脈系」と後方からの「椎骨脳底動脈系」という2つの系統で行われていること、そしてそれらが脳の底で合流し「ウイリス動脈輪」という安全装置を形成していることを理解します。(参照:P78-80) 説明 脳を栄養する動脈 脳は、左右の内頸動脈と左右の椎骨動脈の計4本の動脈によって血液が供給されています。 内頸動脈系:総頸動脈から分岐し、脳の前方および中部(前頭葉、頭頂葉、側頭葉など)を栄養します。 椎骨脳底動脈系:鎖骨下動脈から分岐し、左右の椎骨動脈が脳幹の前で合流して1本の脳底動脈となり、脳の後方(後頭葉、小脳、脳幹)を栄養します。 ウイリス動脈輪 内頸動脈系と椎骨脳底動脈系は、脳の底面で前交通動脈と後交通動脈を介して互いに連絡し、輪のような形(ウイリス動脈輪)を作っています。 この構造により、もし4本の動脈のうち1本が詰まっても、他の動脈から血液が回り込み、脳血流の途絶をある程度防ぐことができます。 脳血流の自動調節能 脳は、血圧がある程度の範囲(平均血圧で約60~150mmHg)で変動しても、脳血流量を常に一定に保つ仕組み(自動調節能)を持っています。 12.意識の概念と意識を維持する仕組みについて説明できる。 【学習のポイント】 意識は「覚醒度」と「内容」の2つの側面から成り立っており、その維持には脳幹の「上行性網様体賦活系」と大脳皮質の両方が不可欠であることを理解します。(参照:P80-81) 説明 意識の概念 臨床的に、意識は2つの要素に分けて評価されます。 意識の覚醒度:外部からの刺激に対して目覚めることができるか、という反応性のレベル(「意識レベル」とも呼ばれる)。 意識の内容:自分が誰で、今どこにいて、何をしているかなどを正しく認識する認知機能(見当識など)。 意識を維持する仕組み 意識の維持には、脳幹と大脳皮質の両方が正常に機能することが必要です。 上行性網様体賦活系:脳幹の中心部にある網様体は、身体中からの感覚刺激を受け、その興奮を視床を経由して大脳皮質全体に送ることで、脳を活性化させ覚醒状態を維持しています。このシステムが「覚醒度」を支えています。 この賦活系によって覚醒した大脳皮質が、記憶や思考などの広範な活動を行うことで、「意識の内容」が形成されます。 したがって、上行性網様体賦活系のある脳幹の障害、または大脳皮質の広範な障害のいずれか、あるいは両方によって意識障害が起こります。 13.神経反射の仕組みと代表的な反射をあげることができる。 【学習のポイント】 反射とは特定の刺激に対する無意識の反応であり、「反射弓」という決まった神経回路を通って起こることを理解します。代表的な反射の種類と、それぞれの刺激と反応、関わる神経(求心路・中枢・遠心路)を覚えます。(参照:P81-82) 説明 反射の仕組み(反射弓) 反射とは、ある特定の刺激に対して、大脳の判断を介さずに無意識的に起こる定型的な反応です。 この反応は、感覚受容器 → 求心性神経(感覚神経) → 中枢神経(脳幹・脊髄) → 遠心性神経(運動神経)...