1.神経系の構成と役割について説明できる。
【学習のポイント】
神経系が「中枢」と「末梢」に大別され、それぞれがさらに細かい区分に分かれていること、そして全体として身体内外の情報を統合し、適切な反応を引き起こす司令塔の役割を担っていることを理解します。(参照:P67-68)
説明
- 構成
- 神経系は、中枢神経系と末梢神経系の2つに大きく分けられます。
- 中枢神経系:骨(頭蓋骨、脊柱)に保護されており、脳と脊髄からなります。脳はさらに大脳、間脳、小脳、脳幹(中脳、橋、延髄)に区分されます。
- 末梢神経系:中枢神経系から出て全身に分布する神経で、脳から出る12対の脳神経と、脊髄から出る31対の脊髄神経があります。
- 機能的には、意識的な活動に関わる体性神経系(運動神経、感覚神経)と、無意識的な生命活動の調節に関わる自律神経系(交感神経、副交感神経)に分類されます。
- 神経系は、中枢神経系と末梢神経系の2つに大きく分けられます。
- 役割
- 神経系は、身体の各器官が協調して働き、個体としてまとまった活動ができるように統合・調節する役割を担っています。
- 主な働きは以下の3つです。
- 皮膚や諸器官(受容器)で受け取った内外の刺激を中枢に伝える(入力)。
- 伝えられた情報を統合・判断し、適切な命令を発する(情報処理)。
- 命令を筋肉や腺(効果器)に伝え、反応を引き起こす(出力)。
- このようにして、外界の状況に適応したり、体内の環境を一定に保ったりする(神経性調節)ことが、神経系の最も重要な役割です。
2.神経細胞の構造と機能について説明できる。
【学習のポイント】
神経系の基本単位である神経細胞(ニューロン)の形と、情報がどのように伝わっていくのか(シナプス伝達)を理解します。(参照:P67, 69)
説明
- 構造
- 神経系を構成する主な細胞は**神経細胞(ニューロン)と、それを支える神経膠細胞(グリア細胞)**です。
- 神経細胞は、核のある神経細胞体、他の細胞からの情報を受け取る多数の樹状突起、他の細胞へ情報を伝える1本の長い軸索から構成されます。
- 中枢神経では、神経細胞体の集まりを灰白質、神経線維(軸索)の集まりを白質と呼びます。
- 機能
- 神経細胞の主な機能は、興奮の伝達です。情報は「樹状突起 → 神経細胞体 → 軸索」という一方向へ流れます。
- 神経細胞間の情報の受け渡しは、シナプスと呼ばれる接合部で行われます。
- シナプスでは、軸索の末端から神経伝達物質(アセチルコリン、ノルアドレナリンなど)が放出され、次の神経細胞の樹状突起にある受容体に結合することで情報が伝達されます。これをシナプス伝達といい、一方向性という特徴があります。
3.脳の各部の構造と機能について説明できる。
【学習のポイント】
脳を構成する大脳、間脳、小脳、脳幹のそれぞれの位置と、担っている大まかな役割を整理して覚えます。(参照:P70-72)
説明
- 大脳
- 構造:脳の大部分を占め、左右の大脳半球に分かれています。表面は大脳皮質(灰白質)、内部は大脳髄質(白質)と大脳基底核からなります。深い溝によって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられます。
- 機能:思考、記憶、言語、感情などの高次精神機能や、随意運動、感覚などを司る中枢です。
- 間脳
- 構造:大脳と中脳の間にあり、視床と視床下部からなります。
- 機能:
- 視床:嗅覚を除く全ての感覚情報が、大脳皮質へ送られる前の中継点です。意識の維持にも関与します。
- 視床下部:自律神経系の中枢であり、体温、食欲、水分摂取、ホルモン分泌などを調節し、生命維持に不可欠な機能を担います。
- 小脳
- 構造:橋と延髄の背側に位置し、左右の小脳半球と中央の小脳虫部からなります。
- 機能:運動の調節、身体の平衡感覚、姿勢の維持など、運動をスムーズに行うための重要な役割を担っています。
- 脳幹
- 構造:中脳、橋、延髄を合わせた部分で、間脳の下、脊髄の上につながります。
- 機能:
- 呼吸、循環、意識など、生命維持に不可欠な中枢が存在します。
- 大脳と脊髄や小脳を結ぶ、運動・感覚の重要な神経線維(伝導路)が通ります。
- 12対の脳神経のうち10対の神経核(神経細胞体の集まり)が存在します。
4.大脳皮質の主な中枢とそれぞれの位置と機能について説明できる。
【学習のポイント】
大脳皮質には機能ごとに場所が決まっている部分(機能局在)があります。どの葉にどの機能の中枢があるのかを対応させて覚えることが重要です。(参照:P70-71)
説明
大脳皮質の各領域は、特定の機能を担っています。
- 運動野(領):前頭葉にあり、中心溝の前に位置します。手足などを意のままに動かす随意運動の命令を出します。
- 感覚野(領):頭頂葉にあり、中心溝の後ろに位置します。身体の各部からの痛み、温度、触覚などの情報を受け取ります。
- 視覚野(領):後頭葉にあり、目から入った視覚情報を受け取り、映像として認識します。
- 聴覚野(領):側頭葉にあり、耳から入った聴覚情報を受け取り、音として認識します。
- 言語中枢:多くは左大脳半球に存在します。
- 運動性言語野(ブローカ野):前頭葉にあり、「話す」ことに関わります。
- 感覚性言語野(ウェルニッケ野):側頭葉にあり、「言葉を理解する」ことに関わります。
- 連合野:上記の専門領域以外の広い部分で、各領域からの情報を統合し、思考、判断、記憶などのより高度な精神活動を担います。
5.脊髄の構造と機能について説明できる。
【学習のポイント】
脊髄は脳と末梢をつなぐ中継路であると同時に、それ自体が反射の中枢でもあるという二つの側面を理解します。断面図での灰白質と白質の配置も重要です。(参照:P72)
説明
- 構造
- 脊髄は延髄に続き、脊柱の中にある脊柱管を通っています。
- 断面を見ると、中心部に蝶が羽を広げたような形の灰白質があり、その周囲を白質が取り囲んでいます。
- 灰白質:神経細胞体が集まる部分で、運動神経細胞が集まる前角、感覚神経細胞が集まる後角などに分かれます。
- 白質:神経線維が集まる部分で、脳と脊髄の間を上り下りする情報の伝導路となっています。
- 脊髄からは、運動神経線維が出る前根と、感覚神経線維が入る後根が出ており、これらが合流して1本の脊髄神経となります。
- 機能
- 伝導路としての機能:脳からの運動の命令を筋肉に伝え、身体各部からの感覚情報を脳に伝える中継役を果たします。
- 反射の中枢としての機能:脳を介さずに、刺激に対して直接的に反応を起こす脊髄反射(例:膝蓋腱反射)の中枢となります。
6.脳室系と髄膜、脳脊髄液それぞれの構造と機能について説明できる。
【学習のポイント】
脳と脊髄は、髄膜という袋と、その中を満たす脳脊髄液によって、二重三重に保護されています。これらの構造と、脳脊髄液の産生から吸収までの流れを理解します。(参照:P72-73)
説明
- 髄膜
- 構造:脳と脊髄を覆う3層の膜で、外側から硬膜、くも膜、軟膜の順になっています。
- 機能:中枢神経を物理的な衝撃から保護します。硬膜とくも膜の間には硬膜下腔、くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔というスペースがあります。
- 脳脊髄液(髄液)
- 構造:くも膜下腔と、脳の内部にある脳室(側脳室、第三脳室、第四脳室)を満たしている無色透明の液体です。
- 機能:水に浮かせるようにして脳と脊髄を衝撃から保護するクッションの役割を果たします。脳室にある脈絡叢で1日に約500mL産生され、循環した後にくも膜顆粒などから静脈へ吸収されます。
- 脳室系
- 構造:脳の内部にある一連の空間で、左右の側脳室、第三脳室、第四脳室からなります。これらは互いに連絡し、脳脊髄液の通り道となっています。
- 機能:脳脊髄液を産生・循環させることで、脳の保護に関与します。
7.脳神経系それぞれの構造と機能について説明できる。
【学習のポイント】
12対ある脳神経の番号、名称、そしてそれぞれの主な機能をセットで覚えることが重要です。特に、眼球運動に関わる神経(III, IV, VI)や、顔面の感覚・運動を支配する神経(V, VII)、自律神経成分を含む神経(III, VII, IX, X)は頻出です。(参照:P74-76)
説明
脳から直接出入りする12対の末梢神経で、主に頭頸部の機能に関与します。
- 第I脳神経(嗅神経):嗅覚(感覚)
- 第II脳神経(視神経):視覚(感覚)
- 第III脳神経(動眼神経):眼球運動(上・下・内直筋、下斜筋)、まぶたを上げる、瞳孔の収縮(副交感神経)
- 第IV脳神経(滑車神経):眼球運動(上斜筋)
- 第V脳神経(三叉神経):顔面の感覚(痛覚、触覚)、咀嚼筋の運動
- 第VI脳神経(外転神経):眼球運動(外直筋)
- 第VII脳神経(顔面神経):顔の表情を作る筋肉の運動、舌の前2/3の味覚、涙や唾液の分泌(副交感神経)
- 第VIII脳神経(内耳神経):聴覚と平衡感覚(感覚)
- 第IX脳神経(舌咽神経):舌の後ろ1/3の味覚、嚥下運動、唾液の分泌(副交感神経)
- 第X脳神経(迷走神経):発声、嚥下運動、胸部・腹部の多くの内臓の働きを調節する(副交感神経)
- 第XI脳神経(副神経):首を回す、肩をすくめる筋肉(胸鎖乳突筋、僧帽筋)の運動
- 第XII脳神経(舌下神経):舌の運動
8.運動の伝導路について簡単に説明できる。
【学習のポイント】
自分の意志で身体を動かす(随意運動)ための命令が、大脳皮質から筋肉までどのように伝わるのか、その主要な経路である「錐体路」の流れを理解します。(参照:P77)
説明
運動の命令は、大脳皮質から骨格筋へ特定の神経経路(伝導路)を通って伝えられます。
- 皮質脊髄路(錐体路)
- 随意運動を司る最も重要な伝導路です。
- 経路:大脳皮質の運動野から出た神経線維は、脳幹を下り、延髄の錐体という部分でその大部分が反対側へ交叉します。その後、脊髄の白質(側索)を下行し、目的の高さの脊髄灰白質(前角)で次の神経細胞に乗り換え、脊髄神経となって筋肉に到達します。
- 右脳が左半身を、左脳が右半身を支配するのは、この錐体交叉のためです。
- 錐体外路系
- 錐体路以外の運動に関する伝導路の総称で、運動の円滑さや姿勢の保持などの無意識的な調節に関与しています。
9.感覚の伝導路について簡単に説明できる。
【学習のポイント】
身体の各部で感じた情報が、脊髄を通って脳の感覚野までどのように伝わるのか、感覚の種類によって通るルートが異なることを理解します。(参照:P77)
説明
末梢の受容器で受け取った感覚情報は、特定の伝導路を通って大脳皮質の感覚野へ伝えられます。
- 外側脊髄視床路
- 機能:痛覚と温度覚を伝えます。
- 経路:皮膚などからの感覚情報は、脊髄神経を通って脊髄の後角に入り、すぐに反対側へ交叉します。その後、脊髄の白質(側索)を上行し、視床で中継され、大脳皮質の感覚野に到達します。
- 後索-内側毛帯路
- 機能:触覚(識別性の高いもの)や、手足の位置などを感じる深部感覚を伝えます。
- 経路:感覚情報は脊髄に入った後、交叉せずに同側の白質(後索)を上行し、延髄で初めて反対側へ交叉します。その後、視床を経て感覚野に到達します。
10.自律神経系それぞれの構造と主な臓器に及ぼす作用について説明できる。
【学習のポイント】
アクセル役の「交感神経」とブレーキ役の「副交感神経」が、互いにバランスを取りながら内臓の働きを調節していることを理解します。それぞれの神経が優位になったときの身体の状態をイメージできることが重要です。(参照:P78, 106-107)
説明
自律神経系は、意志とは無関係に働く神経系で、内臓の機能や体温、血圧などを自動的に調節しています。交感神経系と副交感神経系からなり、多くの器官は両者による二重支配を受け、互いに拮抗的に(逆の)作用を及ぼします。
- 交感神経系
- 構造:神経線維は胸髄と腰髄から出ています。
- 作用:身体が活動的・緊張・興奮状態のときに優位になります。「闘争か逃走か」の神経とも呼ばれます。
- 心臓:心拍数増加、心収縮力増強
- 血管:収縮(血圧上昇)
- 気管支:拡張
- 消化器:運動や分泌を抑制
- 瞳孔:散大(開く)
- 副交感神経系
- 構造:神経線維は脳幹(動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経)と仙髄から出ています。
- 作用:身体がリラックス・安静状態のときに優位になります。消化や休息を促します。
- 心臓:心拍数減少
- 気管支:収縮
- 消化器:運動や分泌を促進
- 瞳孔:縮瞳(閉じる)
11.脳循環について簡単に説明できる。
【学習のポイント】
脳への血液供給が、前方からの「内頸動脈系」と後方からの「椎骨脳底動脈系」という2つの系統で行われていること、そしてそれらが脳の底で合流し「ウイリス動脈輪」という安全装置を形成していることを理解します。(参照:P78-80)
説明
- 脳を栄養する動脈
- 脳は、左右の内頸動脈と左右の椎骨動脈の計4本の動脈によって血液が供給されています。
- 内頸動脈系:総頸動脈から分岐し、脳の前方および中部(前頭葉、頭頂葉、側頭葉など)を栄養します。
- 椎骨脳底動脈系:鎖骨下動脈から分岐し、左右の椎骨動脈が脳幹の前で合流して1本の脳底動脈となり、脳の後方(後頭葉、小脳、脳幹)を栄養します。
- 脳は、左右の内頸動脈と左右の椎骨動脈の計4本の動脈によって血液が供給されています。
- ウイリス動脈輪
- 内頸動脈系と椎骨脳底動脈系は、脳の底面で前交通動脈と後交通動脈を介して互いに連絡し、輪のような形(ウイリス動脈輪)を作っています。
- この構造により、もし4本の動脈のうち1本が詰まっても、他の動脈から血液が回り込み、脳血流の途絶をある程度防ぐことができます。
- 脳血流の自動調節能
- 脳は、血圧がある程度の範囲(平均血圧で約60~150mmHg)で変動しても、脳血流量を常に一定に保つ仕組み(自動調節能)を持っています。
12.意識の概念と意識を維持する仕組みについて説明できる。
【学習のポイント】
意識は「覚醒度」と「内容」の2つの側面から成り立っており、その維持には脳幹の「上行性網様体賦活系」と大脳皮質の両方が不可欠であることを理解します。(参照:P80-81)
説明
- 意識の概念
- 臨床的に、意識は2つの要素に分けて評価されます。
- 意識の覚醒度:外部からの刺激に対して目覚めることができるか、という反応性のレベル(「意識レベル」とも呼ばれる)。
- 意識の内容:自分が誰で、今どこにいて、何をしているかなどを正しく認識する認知機能(見当識など)。
- 臨床的に、意識は2つの要素に分けて評価されます。
- 意識を維持する仕組み
- 意識の維持には、脳幹と大脳皮質の両方が正常に機能することが必要です。
- 上行性網様体賦活系:脳幹の中心部にある網様体は、身体中からの感覚刺激を受け、その興奮を視床を経由して大脳皮質全体に送ることで、脳を活性化させ覚醒状態を維持しています。このシステムが「覚醒度」を支えています。
- この賦活系によって覚醒した大脳皮質が、記憶や思考などの広範な活動を行うことで、「意識の内容」が形成されます。
- したがって、上行性網様体賦活系のある脳幹の障害、または大脳皮質の広範な障害のいずれか、あるいは両方によって意識障害が起こります。
13.神経反射の仕組みと代表的な反射をあげることができる。
【学習のポイント】
反射とは特定の刺激に対する無意識の反応であり、「反射弓」という決まった神経回路を通って起こることを理解します。代表的な反射の種類と、それぞれの刺激と反応、関わる神経(求心路・中枢・遠心路)を覚えます。(参照:P81-82)
説明
- 反射の仕組み(反射弓)
- 反射とは、ある特定の刺激に対して、大脳の判断を介さずに無意識的に起こる定型的な反応です。
- この反応は、感覚受容器 → 求心性神経(感覚神経) → 中枢神経(脳幹・脊髄) → 遠心性神経(運動神経) → 効果器(筋肉など) という一連の神経経路を信号が伝わることで起こります。この経路を反射弓と呼びます。
- 代表的な反射
- 膝蓋腱反射:膝のお皿の下の腱を叩くと、意思とは関係なく足が伸びる反射。脊髄が中枢となる脊髄反射の代表例です。
- 対光反射:片方の目に光を当てると、両方の瞳孔が収縮する反射。求心路は視神経、中枢は中脳、遠心路は動眼神経です。
- 角膜反射:角膜に触れると、まぶたを閉じる反射。求心路は三叉神経、中枢は脳幹、遠心路は顔面神経です。
- 咽頭反射:のどの奥を刺激すると、「オエッ」となる反射。求心路は舌咽神経、遠心路は迷走神経です。これらの反射を調べることで、神経系の障害部位を推定するのに役立ちます。