1.身体の主な3つの面、および体表で目印となる主な線をあげ、自分の身体で指し示すことができる。
【学習のポイント】
人体の位置や方向を正確に表現するためには、基準となる面と線についての理解が不可欠です。これらは解剖学的基本体位(直立し、顔を前に向け、腕を体側に下げて手のひらを前に向けた姿勢)を基準とします。
■身体の主な3つの面
人体を分割する主要な平面として、以下の3つがあります。
- 矢状面(しじょうめん): 身体を左右に分ける縦の面です。身体の中心を通り、左右対称に分ける面を特に**正中面(せいちゅうめん)**と呼びます。
- 前頭面(ぜんとうめん)(前額面): 身体を前後に分ける、額に平行な面です。
- 水平面(すいへいめん): 身体を上下に分ける、地面と水平な面です。いわゆる横断面にあたります。
■体表で目印となる主な線
体表の骨や器官を目印として、位置を示すために以下の線が用いられます。
- 前胸部の線:
- 前正中線(ぜんせいちゅうせん): 胸骨の中央を通る縦の線です。
- 鎖骨中線(さこつちゅうせん): 鎖骨の中央を通る縦の線で、頻繁に用いられます。
- 乳頭線(にゅうとうせん): 乳頭を通る縦の線ですが、女性では乳房の位置により定まりにくい場合があります。
- 背面の線:
- 肩甲線(けんこうせん): 肩甲骨の下端(下角)を通る縦の線です。
- ヤコビー線: 左右の腸骨稜(骨盤の上縁)の最高点を結ぶ横の線で、第4腰椎の高さにあたります。
- 側胸部の線(腕を挙げた状態):
- 前腋窩線(ぜんえきかせん): わきの下(腋窩)の前縁を通る縦の線です。
- 中腋窩線(ちゅうえきかせん): 腋窩の中央を通る縦の線です。
- 後腋窩線(こうえきかせん): 腋窩の後縁を通る縦の線です。
2.主な関節運動の方向をあげ、四肢の主な関節における具体的な動きで示すことができる。
【学習のポイント】
関節の動きは、解剖学的基本体位を基準とした特定の用語で表現されます。これにより、どの関節のどのような動きかを正確に伝達できます。
■主な関節運動の方向
- 屈曲(くっきょく)・伸展(しんてん): 矢状面上の動きです。関節の角度を小さくする動きが「屈曲」(曲げる)、角度を大きくして元の位置に戻したり、さらに反らしたりする動きが「伸展」(伸ばす)です。
- 具体例: 肘を曲げる(屈曲)、膝を伸ばす(伸展)。
- 外転(がいてん)・内転(ないてん): 前頭面上の動きです。身体の中心線(正中線)から遠ざける動きが「外転」、中心線に近づける動きが「内転」です。
- 具体例: 腕を真横に上げる(肩関節の外転)、上げた腕を下ろす(肩関節の内転)。
- 外旋(がいせん)・内旋(ないせん): 水平面上の動きです。身体の前面を外側に向ける動きが「外旋」、内側に向ける動きが「内旋」です。
- 具体例: つま先を外側に向ける(股関節の外旋)、内側に向ける(股関節の内旋)。
■特殊な関節運動
- 前腕の運動:
- 回内(かいない): 手のひらを下(後方)に向ける動きです。
- 回外(かいがい): 手のひらを上(前方)に向ける動きです(解剖学的基本体位)。
- 足の運動:
- 内反(ないはん): 足の裏を内側に向ける動きです。
- 外反(がいはん): 足の裏を外側に向ける動きです。
3.体表から観察できる解剖学的指標をあげ、自分の身体で指し示すことができる。
【学習のポイント】
体表から触れたり見たりできる骨の突出部や溝などは、身体内部の構造を推定するための重要な目印(解剖学的指標)となります。
■主な解剖学的指標
- 頭頸部:
- 外後頭隆起(がいこうとうりゅうき): 後頭部の中央にある骨の出っ張りです。
- 乳様突起(にゅうようとっき): 耳の後ろにある丸い骨の突出部です。
- 甲状軟骨(こうじょうなんこつ): のど仏のことです。
- 輪状軟骨(りんじょうなんこつ): 甲状軟骨のすぐ下にあり、気管を取り巻くリング状の軟骨です。
- 隆椎(りゅうつい): 首を前に曲げたときに後頸部の付け根で最も突出して触れる骨(第7頸椎)です。
- 胸部・肩:
- 肩峰(けんぽう): 肩の最も外側にある骨の盛り上がりです。
- 胸骨角(きょうこつかく): 胸骨の上部にある、前方に少し突き出た部分で、第2肋骨が付着する高さの目印になります。
- 剣状突起(けんじょうとっき): みぞおちの中央で触れる、胸骨の下端にある小さな突出部です。
- 肋骨弓(ろっこつきゅう): 左右の肋骨の下縁が作るアーチ状のラインで、胸部と腹部の境界になります。
- 骨盤・下肢:
- 腸骨稜(ちょうこつりょう): 腰の両側で触れる骨盤の上縁です。
- 上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく): 腸骨稜の前端にある突出部で、ズボンのベルトがかかる位置です。
- 大転子(だいてんし): 太ももの付け根の外側で触れる大腿骨の大きな出っ張りです。
- 坐骨結節(ざこつけっせつ): 椅子に座ったときに座面に当たる、お尻の下の硬い骨です。
- 外果(がいか)・内果(ないか): それぞれ、足首の「そとくるぶし」と「うちくるぶし」です。
4.身体を主な部位に分け、それぞれの構造と機能を簡単に説明できる。
【学習のポイント】
人体は、機能や位置によっていくつかの部位に分けられます。それぞれの部位の大まかな構造と役割を理解することは、全身状態を把握する上で基本となります。
■身体の主な部位と構造・機能
身体は大きく頭頸部、体幹(胸部、腹部、背部、腰部)、四肢(上肢、下肢)に分けられます。
- 頭部・顔面:
- 構造: 頭蓋骨が脳を保護し、顔面には目、鼻、口などの感覚器や、食事や呼吸の入口があります。
- 機能: 思考、判断などの中枢機能、視覚・聴覚・嗅覚・味覚などの感覚機能、食事の摂取、呼吸、表情によるコミュニケーションなどを担います。
- 頸部:
- 構造: 頸椎が頭部を支え、内部には気道(喉頭、気管)、食道、血管(頸動脈、頸静脈)、神経などが通っています。
- 機能: 頭部と体幹をつなぎ、頭部の運動を可能にします。また、生命維持に重要な器官の通路となっています。発声機能も担います。
- 胸部:
- 構造: 肋骨、胸椎、胸骨からなる胸郭が、心臓、肺、大血管、食道などの重要臓器を保護しています。横隔膜や肋間筋などの呼吸筋があります。
- 機能: 呼吸運動によるガス交換(外呼吸)と、心臓のポンプ作用による血液循環の中心的な役割を果たします。
- 腹部:
- 構造: 腹壁の筋肉に囲まれ、内部には胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓などの消化器系臓器、腎臓や膀胱などの泌尿器系臓器、脾臓などがあります。
- 機能: 食物の消化・吸収、栄養素の代謝、老廃物の排泄、体液バランスの調節など、生命維持に不可欠な多くの機能を担います。
- 骨盤:
- 構造: 寛骨と仙骨からなる輪状の骨格で、体幹と下肢をつなぎます。内部には膀胱、直腸、生殖器などを保護しています。
- 機能: 上半身の体重を支え、下肢に伝えます。また、排泄や生殖に関わる臓器を保護します。
- 四肢(上肢・下肢):
- 構造: 上肢は肩甲骨、鎖骨、上腕骨、前腕骨、手の骨で、下肢は骨盤、大腿骨、下腿骨、足の骨で構成されます。それぞれ大小の筋肉が付着しています。
- 機能: 下肢は体重を支え、起立、歩行などの移動を担います。上肢は物を持つ、作業するなど、複雑で精密な運動を行います。