第48回救急救命士国家試験 D6

18歳の女性。朝食にパンを食べた後ランニングをしたところ気分不良となったため、友人が救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識JCS20。呼吸数28/分、整。脈拍135/分、整。血圧80/60㎜Hg。
SpO2値90%(室内気)。皮膚は紅潮している。自己注射用アドレナリンは所持していない。
酸素投与を開始した後に、行う処置として適切なのはどれか。1つ選べ。
1. 静脈路確保の指示要請をする。
2. 喉頭鏡で異物の有無を確認する。
3. 声門上気道デバイスの指示要請をする。
4. バッグ・バルブ・マスク人工呼吸を行う。
5. アドレナリン1mg静脈内投与の指示要請をする

救急救命士国家試験 解説:アナフィラキシーショックが疑われる傷病者への対応

【問題の概要と重要ポイント】

本問題は、18歳の女性が朝食にパンを食べた後ランニング中に気分不良を訴え、救急要請された事案です。救急隊到着時、意識レベルはJCS20、呼吸数28/分(整)、脈拍135/分(整)、血圧80/60mmHg、SpO2値90%(室内気)、皮膚は紅潮しており、自己注射用アドレナリンは所持していません。酸素投与が開始された後の次の処置として適切なものを選択する形式です。

この問題は、受験者に対して、以下の点を理解し判断する能力を求めています。

  • 生命を脅かす状態の認識: 現場状況とバイタルサインから、アナフィラキシーショックという重篤な状態を迅速に疑うことができるか。
  • 病態の理解: 食物摂取と運動というキーワードから、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の可能性を考慮できるか。
  • 処置の優先順位: 酸素投与という初期対応後、ショック状態の改善と生命維持のために、次に何を優先して行うべきかを、救急活動の原則(ABCDEアプローチなど)および関連法規・プロトコルに則って判断できるか。

本症例の患者は、若年女性であり、特定の食物(パン=小麦製品の可能性)を摂取し、その後運動を行った後に症状が出現している点が特徴的です 1。皮膚の紅潮、頻脈、著しい血圧低下、頻呼吸、低酸素血症、意識レベルの低下(JCS20は「大きな声または体をゆすることにより開眼する」状態を示し、著しい意識障害です 3)は、アナフィラキシーショックの典型的な徴候と合致しています 5。特に、収縮期血圧80mmHgは、アナフィラキシーにおけるショックの診断基準の一つである90mmHg未満を満たしています 5

自己注射用アドレナリンを所持していないという情報は、救急救命士によるアドレナリン投与の必要性が高まる可能性を示唆しており、そのための準備(薬剤投与経路の確保など)の重要性を浮き彫りにします 7。既に酸素投与が開始されている状況で、次にショックに対する根本的な対応、特に循環動態の維持・改善が急務となります。

【正解の根拠と詳細解説】

正解:1. 静脈路確保の指示要請をする。

この選択肢が正解である理由は、患者が呈しているアナフィラキシーショックという重篤な状態に対して、迅速な循環動態の改善が最優先されるべきであり、そのための輸液療法および必要に応じた薬剤投与のルートを確保することが不可欠だからです。

  • ショック状態への緊急対応:
    本症例の患者は、血圧80/60mmHg、脈拍135/分という顕著なショック状態にあります。アナフィラキシーによるショックは、血管拡張と血管透過性の亢進により循環血液量が相対的および実質的に減少し、組織への酸素供給が著しく低下する状態(分布性ショック)です 9。この状態を改善するためには、迅速かつ大量の輸液(細胞外液補充液)が極めて重要となります。静脈路確保は、この輸液療法を実施するための絶対的な前提条件であり、ショックの進行を食い止め、生命を維持するために最優先されるべき処置の一つです。救急救命士によるショックの傷病者に対する静脈路確保および輸液は、プロトコルに基づいて医師の指示のもと行われます 8。
  • アナフィラキシー治療における輸液の重要性:
    アナフィラキシーの治療において、アドレナリン投与が第一選択であることは論を俟ちませんが、特にショックを呈している場合には、アドレナリンの効果を補助し、循環血液量を補うための積極的な輸液が不可欠です 9。血管透過性の亢進により血管内から間質へ大量の水分が漏出するため、これを補うことで血圧の維持と臓器灌流の改善を図ります。
  • 薬剤投与経路の確保:
    患者は自己注射用アドレナリンを所持していません。アナフィラキシーに対する第一選択薬はアドレナリンの筋肉内注射ですが 10、ショックが重篤で改善しない場合や、心停止に至った場合にはアドレナリンの静脈内投与が考慮されることがあります。アドレナリンの静脈内投与は、より慎重な投与量管理とモニタリングが必要であり、安全な静脈路が確保されていることが大前提です 9。また、アドレナリン以外の薬剤(抗ヒスタミン薬やステロイドなど、ただしこれらは即効性は期待できず、あくまで補助療法)を投与する場合にも静脈路は有用です。
  • 救急救命士の特定行為としての適切性:
    静脈路確保は、救急救命士法に定められた特定行為の一つであり、原則として医師の具体的な指示に基づいて実施されます 8。したがって、本選択肢の「指示要請をする」という行動は、法規を遵守した適切な手順です。酸素投与という初期対応が完了し、ショック状態が明らかである以上、次のステップとして静脈路確保の指示を仰ぐことは、救急現場の活動として論理的かつ標準的です。

問題文中の「血圧80/60mmHg」「脈拍135/分」「意識JCS20」「SpO2値90%」というバイタルサインは、いずれもショックの重症度を示しており、迅速な循環サポートの必要性を裏付けています。また、「皮膚は紅潮している」「パンを食べた後ランニング」という情報は、アナフィラキシー、特に食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を強く示唆するものであり 1、これらの情報を総合的に判断すると、静脈路確保の指示要請が最も優先度の高い行動となります。

【各不正解選択肢の解説】

  • (選択肢2):喉頭鏡で異物の有無を確認する。
  • なぜ誤りなのか: 現時点では、気道異物による閉塞を積極的に疑う所見(例:突然の窒息、喘鳴、発声困難、頸部掻きむしりなど)は問題文に記載されていません。患者は呼吸数28/分で自発呼吸があり、「整」とされています。アナフィラキシーにおける気道症状は、喉頭浮腫や気管支攣縮によるものであり、固形異物とは病態が異なります 5。喉頭鏡による観察は侵襲的な手技であり、明確な上気道閉塞の兆候がない限り、ショック状態の改善というより優先度の高い処置を差し置いて行うべきではありません。気道確保の必要性が高まった場合、例えば換気困難が生じた際に、口腔内観察や異物除去の一環として喉頭鏡が用いられることはありますが 16、本症例の初期対応としては優先されません。
  • 正解となり得る状況: もし患者が明らかな吸気性喘鳴、チアノーゼの急激な進行、バッグ・バルブ・マスクでの換気不能など、重篤な上気道閉塞を示唆する所見を呈し、かつ異物誤嚥の可能性が疑われる場合には、異物確認および除去のために喉頭鏡の使用が考慮されることがあります。しかし、本症例ではまず循環の安定化が急務です。
  • (選択肢3):声門上気道デバイスの指示要請をする。
  • なぜ誤りなのか: 患者は自発呼吸があり、現時点では直ちに高度な気道確保が必要な状態とは判断できません。SpO2 90%は酸素投与による改善を期待しつつ、ショックに対する治療を優先すべき状況です。声門上気道デバイス(SGA)の適応は、主に心肺停止時、または自発呼吸が消失したり著しく減弱したりして、用手的な気道確保やバッグ・バルブ・マスクによる換気が不十分な場合です 16。JCS20の意識レベルでは、まだ咽頭反射や咳反射が残存している可能性があり、SGAの挿入が困難であったり、嘔吐を誘発して誤嚥のリスクを高めたりする可能性があります。
  • 正解となり得る状況: 酸素投与やアナフィラキシー治療にもかかわらず、呼吸状態が急速に悪化し、自発呼吸が著しく抑制される、意識レベルがさらに低下してJCS 3桁になる、または気道閉塞の徴候(例:著しい喘鳴、換気困難)が明らかになった場合には、SGAによる気道確保の指示要請が適切となる可能性があります。
  • (選択肢4):バッグ・バルブ・マスク人工呼吸を行う。
  • なぜ誤りなのか: 患者は呼吸数28/分で自発呼吸があり、「整」と記載されています。バッグ・バルブ・マスク(BVM)による人工呼吸の適応は、自発呼吸がない場合、または自発呼吸が著しく不十分で有効な換気が行えていない場合(例:死戦期呼吸、極端に浅く遅い呼吸)です 17。本症例では頻呼吸ではありますが、直ちにBVMによる陽圧換気が必要な状態とは言えません。まずは高流量酸素投与を継続し、ショックに対する治療を優先することで、呼吸仕事量の軽減と組織の酸素化改善を図るべきです。
  • 正解となり得る状況: 患者の呼吸状態が悪化し、自発呼吸が停止した場合、または呼吸数が極端に低下したり、非常に浅く努力性になったりして、明らかに換気不全に陥った場合には、BVMによる補助換気または完全な人工呼吸の適応となります。
  • (選択肢5):アドレナリン1mg静脈内投与の指示要請をする。
  • なぜ誤りなのか: この選択肢には複数の重大な誤りが含まれています。
  1. 投与量と投与経路の不適切さ: アナフィラキシーショック(心停止ではない)に対するアドレナリンの初期投与として、1mgの静脈内投与は明らかに過量であり、極めて危険です。この用量は心停止時の蘇生に用いられるものです 19。アナフィラキシー(心停止前)の成人に対するアドレナリンの標準的な投与は、0.3mgから0.5mg(体重あたり0.01mg、最大0.5mg)の筋肉内注射が第一選択です 9。アドレナリンを静脈内投与する場合は、より低濃度で少量から慎重に、または持続静注で行われ、通常は筋注が無効な場合や極めて重篤な場合に医師の厳格な管理下で考慮されます 9
  2. 静脈路の未確保: アドレナリンを静脈内投与するためには、まず安全かつ確実な静脈路が確保されていなければなりません。この選択肢は、その前提となる静脈路確保のステップを無視しています。
  3. 重篤な副作用のリスク: アドレナリンを急速かつ大量に静脈内投与すると、致死的な不整脈(心室細動など)、急激な血圧上昇による脳出血や心筋虚血などを引き起こす重大なリスクがあります 8
  • 正解となり得る状況: この選択肢が正解となる状況は、本問題のシナリオでは考えられません。もし患者がアナフィラキシーにより心肺停止に至った場合(例:心室細動、無脈性電気活動)には、心肺蘇生ガイドラインに基づきアドレナリン1mgの静脈内投与が指示されることがあります 19。しかし、心停止に至っていないアナフィラキシーショックの初期対応としては、絶対に選択してはならない選択肢です。

【本症例における判断のポイントと関連知識】

本症例を適切に判断し、対応するためには、迅速な病態把握と優先順位に基づいた処置の選択が求められます。

思考プロセスと判断の分岐点

  1. 初期評価(ABCDEアプローチ):
  • A (Airway – 気道): JCS20であり、自発呼吸があることから、現時点では気道開通は保たれていると判断できます。しかし、アナフィラキシーでは喉頭浮腫による気道狭窄が急速に進行する可能性があるため、継続的な評価が必要です。
  • B (Breathing – 呼吸): 呼吸数28/分、SpO2 90%(室内気)は呼吸窮迫と低酸素血症を示しています。酸素投与は既に開始されており、これは適切な初期対応です。
  • C (Circulation – 循環): 血圧80/60mmHg、脈拍135/分は典型的なショックバイタルです。皮膚紅潮もアナフィラキシーを示唆する重要な所見です。ここが最も緊急性の高い問題点と認識すべきです。
  • D (Disability – 意識障害): JCS20は中等度から高度の意識障害であり、脳灌流低下または低酸素血症が原因と考えられます。
  • E (Exposure/Environment – 環境/全身観察): 朝食(パン)摂取後、ランニング中に発症という状況は、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を強く疑わせます 1
  1. 病態の推測:
    上記のABCDE評価と病歴から、アナフィラキシーショック(特にFDEIA)が最も可能性の高い病態と判断します。鑑別診断としては、重症喘息発作、急性心不全、神経原性ショック(血管迷走神経反射とは異なる)、敗血症性ショックなどが挙げられますが、皮膚所見と急激な発症、誘因(食物+運動)の存在がアナフィラキシーを強く支持します 5。
  2. 優先順位の決定:
    生命の危機はショックによる循環不全と、それに伴う低酸素血症です。酸素投与は実施済みのため、次の最優先事項は循環の安定化です。そのためには、
  • アドレナリン投与(筋肉内注射が第一選択)の準備・実施。
  • 大量輸液のための静脈路確保。 これらを迅速に行う必要があります。本問題では、酸素投与後の次の処置を問われているため、静脈路確保の指示要請が最も適切となります。

重要な観察項目・評価項目・処置

  • バイタルサインの継続的監視: 血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、意識レベルを頻回に再評価し、変化を捉えます。
  • 気道評価の継続: 嗄声、吸気性喘鳴、嚥下困難、舌や口唇の腫脹など、喉頭浮腫の進行を示唆する所見に注意します。また、呼気性喘鳴の増強や呼吸困難感の悪化など、気管支攣縮の徴候も監視します。
  • 皮膚所見の観察: 蕁麻疹の出現・拡大、血管性浮腫の有無と範囲を確認します。
  • アドレナリン投与:
  • 自己注射薬がないため、救急救命士による投与を考慮します。地域プロトコルに基づき、医師の包括的指示または具体的指示のもと、アドレナリン0.3~0.5mg(成人)を大腿前外側部に筋肉内注射します 9
  • 投与後5~15分で効果が不十分な場合は、反復投与を検討します 6
  • 輸液療法: 静脈路確保後、医師の指示に基づき、生理食塩液や乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液を急速投与します(例:成人で初期500~1000mLを急速に、その後も状態に応じて追加)8
  • 体位管理: ショック体位(仰臥位で下肢を15~30cm程度挙上)を基本としますが、呼吸困難が強い場合は、上半身を軽度挙上(セミファーラー位)することも考慮します 10
  • 医療機関への迅速な搬送と情報伝達: アナフィラキシーショックに対応可能な高次医療機関を早期に選定し、患者情報(推定される病態、バイタルサイン、実施した処置、アドレナリン投与の有無と時間・量など)を正確かつ簡潔に伝達します。

関係機関との連携

  • メディカルコントロール: 静脈路確保、輸液、アドレナリン投与(特に反復投与や静脈内投与を検討する場合)など、特定行為や薬剤投与に関しては、オンラインで医師の指示を仰ぐことが原則です 8。的確な情報伝達と指示受けが重要です。
  • 搬送先医療機関: アナフィラキシーショックは急速に悪化する可能性があるため、気道確保(気管挿管など)や集中治療が可能な医療機関への搬送が望ましいです。

倫理的配慮と安全管理

  • インフォームド・コンセント: 患者の意識レベルがJCS20であるため、十分な説明と同意取得は困難ですが、可能な範囲で実施する処置について声かけを行うなど配慮します。緊急時は救命が最優先されます。
  • 薬剤投与の安全性: 5R(正しい患者、正しい薬剤、正しい量、正しい経路、正しい時間)を徹底し、特にアドレナリンのような作用の強い薬剤の投与ミスは絶対に避けなければなりません。
  • 針刺し事故防止: 静脈路確保や筋肉内注射の際には、標準予防策を遵守し、自身および他の隊員、患者家族などへの針刺し事故を防止します 8

アナフィラキシーの鑑別診断

疾患主な症状/所見本症例との比較
アナフィラキシー皮膚症状(紅潮、蕁麻疹、血管性浮腫)、呼吸器症状(喘鳴、呼吸困難)、循環器症状(血圧低下、頻脈)、消化器症状、意識障害。誘因への曝露後に急激に発症。食物+運動後に発症。皮膚紅潮、血圧低下、頻脈、頻呼吸、低酸素血症、意識障害があり、典型的。
重症喘息発作主に呼気性喘鳴、呼吸困難。アトピー素因や既往歴。血圧低下は通常伴わないか、末期的。皮膚紅潮や著明な血圧低下は喘息単独では説明しにくい。FDEIAでは喘息様症状も出うる。
血管迷走神経反射徐脈、血圧低下、顔面蒼白、悪心・嘔吐。精神的ストレスや疼痛が誘因となることが多い。意識消失は一過性で、臥位で改善しやすい。頻脈であり、皮膚紅潮を伴う点が異なる。誘因も異なる。
パニック発作過換気、動悸、呼吸困難感、めまい、不安感。血圧低下や蕁麻疹、明らかな喘鳴は通常伴わない 5血圧低下、SpO2低下、意識レベル低下(JCS20)はパニック発作では説明困難。
急性心筋梗塞/不安定狭心症胸痛、呼吸困難、冷や汗、放散痛。高齢者や危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴など)を持つ人に多い。若年女性であり、典型的な胸痛の訴えがない。皮膚紅潮も典型的ではない。ただし、アナフィラキシーが心血管系に影響を及ぼすこと(Kounis症候群など)も稀にある。

この表は、現場での迅速な判断の一助となりますが、常に複数の可能性を考慮し、最も可能性の高い病態に対して適切な初期対応を行うことが重要です。

【学習の要点と応用】

この一問を深く理解することは、救急救命士として不可欠な知識と技術を多角的に習得することに繋がります。

不可欠となる重要な医学的知識・関連法規・プロトコル

  1. アナフィラキシーの病態生理、診断基準、重症度評価:
    アナフィラキシーは、アレルゲン等の侵入によりマスト細胞や好塩基球が活性化され、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が全身に放出されることで引き起こされる、急性の全身性アレルギー反応です。これにより、皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、紅潮、血管性浮腫)、呼吸器症状(気道狭窄、気管支攣縮、喘鳴、呼吸困難)、循環器症状(血管拡張による血圧低下、頻脈、ショック)、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢)、神経症状(意識障害、めまい)などが複合的に出現します 5。診断基準としては、典型的な皮膚・粘膜症状に加えて呼吸器または循環器症状が急速に出現した場合や、既知のアレルゲン曝露後に血圧低下や気管支攣縮などが急速に出現した場合などが用いられます 5。重症度は、出現している症状の種類と程度によって評価され、特に気道閉塞やショックは生命を脅かす徴候です。
  2. ショックの病態生理と初期対応(特に分布性ショック):
    ショックとは、全身の組織や臓器への血液灌流が不足し、細胞機能障害や臓器不全を引き起こす生命を脅かす状態です。アナフィラキシーショックは分布性ショックに分類され、血管拡張と血管透過性の亢進により、有効循環血液量が急激に減少し、末梢血管抵抗が低下することで血圧が維持できなくなります 9。初期対応の基本はABCDEアプローチに沿った評価と処置であり、気道確保、高濃度酸素投与、そして循環動態の安定化のための迅速な輸液とアドレナリン投与が中心となります。
  3. アドレナリンの薬理作用、適応、投与経路・投与量、副作用:
    アドレナリンは、α受容体およびβ受容体作動薬です。アナフィラキシーにおいては、α1作用による血管収縮(血圧上昇、浮腫軽減)、β1作用による心拍数増加・心収縮力増強、β2作用による気管支拡張、マスト細胞からの化学伝達物質遊離抑制などの効果が期待され、治療の第一選択薬とされています 10。
    アナフィラキシー(心停止前)の成人に対する標準的な投与は、0.3~0.5mg(0.01mg/kg、最大0.5mg)を大腿前外側部に筋肉内注射します 20。心停止時のアドレナリン1mg静脈内投与とは明確に区別する必要があります 19。副作用としては、動悸、頻脈、頭痛、振戦、血圧上昇、不整脈などがあり、過量投与は重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
  4. 救急救命士の特定行為(静脈路確保、薬剤投与)に関する法的根拠とプロトコル:
    救急救命士が行う静脈路確保やアドレナリン投与(自己注射薬でない場合)は、救急救命士法に定められた特定行為に該当し、原則として医師の具体的な指示が必要です 8。各地域のメディカルコントロール協議会が策定するプロトコルを遵守し、オンラインメディカルコントロール体制下で活動することが基本となります。
  5. 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の理解:
    FDEIAは、特定の食物を摂取後、数時間以内に運動を行うことによってアナフィラキシー症状が誘発される病態です 1。原因食物としては小麦や甲殻類が多く報告されています。若年層に好発し、本症例の18歳という年齢も合致します。問診時には、食事内容と運動の関連性を聴取することが診断の鍵となります。

さらなる学習と応用

  • アナフィラキシーガイドラインの熟読: 日本アレルギー学会や日本救急医学会などが発行する最新のアナフィラキシーガイドライン 5 を熟読し、エビデンスに基づいた最新の知識を習得することが重要です。
  • 様々なショックへの対応: アナフィラキシーショック以外のショック(出血性ショック、心原性ショック、敗血症性ショック、神経原性ショック)の病態生理、鑑別点、治療戦略を比較学習し、総合的なショック管理能力を高めることが望まれます。
  • 小児のアナフィラキシー対応: 小児はアナフィラキシーの症状が非典型的であったり、バイタルサインの評価が成人とは異なる点に注意が必要です。アドレナリンの投与量は体重に基づいて厳密に計算する必要があり(例:0.01mg/kg)6、気道管理においても解剖学的特徴を考慮した手技が求められます。
  • シミュレーション訓練の活用: アナフィラキシーショックを含む重篤な救急事案への対応は、知識だけでなく実践的なスキルとチーム連携が不可欠です。薬剤の準備・投与、高度な気道確保手技、メディカルコントロールとの連携などを想定したシミュレーション訓練を繰り返し行い、判断力と技術を磨くことが推奨されます。
  • 稀なアレルゲンや特殊な状況下のアナフィラキシー: 食物や運動以外にも、薬剤(造影剤、抗菌薬、NSAIDsなど)5、ハチなどの昆虫刺傷、ラテックスなどがアナフィラキシーの原因となり得ます。これらの多様な原因や状況に応じた対応についても学習を深める必要があります。

アナフィラキシー治療におけるアドレナリン投与の要点

項目内容根拠/注意点
適応アナフィラキシーと診断または強く疑われ、特に気道症状(喘鳴、呼吸困難)、循環器症状(血圧低下、意識障害)を伴う場合。症状の進行は急速なため、疑わしい場合は躊躇なく投与を考慮する 6
第一選択の投与経路筋肉内注射大腿前外側部が推奨される。吸収が速やかで確実 9。皮下注射は吸収が遅く推奨されない。
標準投与量(成人)0.01mg/kg、通常は0.3~0.5mgを1回投与。最大投与量は0.5mg 20。自己注射薬(エピペン®)は成人用で0.3mg。
標準投与量(小児)0.01mg/kg、最大投与量は年齢や体重に応じて設定(例:13歳以上は成人と同じ0.5mg、6~12歳0.3mgなど)6体重に基づいた正確な用量計算が重要。自己注射薬(エピペン®)は小児用で0.15mg。
投与部位(筋注)大腿前外側部の中央。衣服の上からでも投与可能(自己注射薬の場合)。救急救命士が注射器で投与する場合は皮膚を露出して行う。
反復投与投与後5~15分経過しても症状の改善がないか、悪化する場合は同量を反復投与可能。医師の指示(包括的または具体的)が必要な場合がある 6
静脈内投与の考慮筋肉内注射に反応しない重篤なショック、または心停止の場合に、医師の厳格な指示・管理のもとで考慮される。通常のショックでは希釈して少量から慎重に投与、または持続注入。心停止時は1mgを急速静注 9。静脈路確保が前提。
主な副作用動悸、頻脈、不整脈、血圧上昇、頭痛、振戦、蒼白、嘔気。過量投与は重篤な心血管系イベント(心筋虚血、脳出血など)のリスクを高める 8

本問題を通じて、アナフィラキシーという緊急性の高い病態に対する深い理解と、救急救命士としての適切な判断・処置能力を養うことが期待されます。

引用文献

  1. アナフィラキシーガイドライン 2022, 6月 6, 2025にアクセス、 https://anaphylaxis-guideline.jp/wp-content/uploads/2023/03/guideline_slide2022.pdf
  2. アレルギーガイドライン2021 ダイジェスト版 第13章 食物依存性 …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_13.html
  3. 【意識レベル評価】JCS・GCSとは?意識障害時の対応は? – 本八幡内科・循環器クリニック, 6月 6, 2025にアクセス、 https://motoyawata.clinic/blog/jcs-gcs/
  4. 意識レベルとは? 4つのスケールやアセスメントの順番を解説 看護 …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20240824-2173255/
  5. アナフィラキシーガイドライン2022 – 一般社団法人 日本アレルギー学会, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2023_0301.pdf
  6. アナフィラキシー | ガイドライン(鑑別・症状・診断基準・治療方針) – HOKUTOアプリ, 6月 6, 2025にアクセス、 https://hokuto.app/erManual/j0Uk9drmefQMEmJptiMb
  7. 知っておこう!手当の仕方 「アナフィラキシーショック」編, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jrc.or.jp/chapter/kanagawa/news/2025/0513_046953.html
  8. www.pref.osaka.lg.jp, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/23350/siryou3-2.pdf
  9. アナフィラキシーについて – 松山赤十字病院, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.matsuyama.jrc.or.jp/wp-content/uploads/pdfs/kr1_27.pdf
  10. アナフィラキシー – 日本麻酔科学会, 6月 6, 2025にアクセス、 https://anesth.or.jp/files/pdf/response_practical_guide_to_anaphylaxis.pdf
  11. 救急救命士の心肺機能停止前の重度傷病者に対する 静脈路確保及び輸液プロトコル 増悪するシ, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000027754_00/11_%E9%9D%99%E8%84%88%E8%B7%AF%E7%A2%BA%E4%BF%9D%E5%8F%8A%E3%81%B3%E8%BC%AA%E6%B6%B2%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%AB.pdf
  12. 抄読会 #3:アナフィラキシーガイドライン改訂2022(2023_0301版), 6月 6, 2025にアクセス、 https://emergency-hirosaki.com/case-reports-papers/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%94%B9%E8%A8%822022/
  13. 救急救命士の救急救命処置(特定行為)|岐阜市公式ホームページ, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/syoubou/1001462/1001468.html
  14. 山形県心肺機能停止前の特定行為プロトコル, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.pref.yamagata.jp/documents/45390/before_cpa.pdf
  15. 運動誘発アナフィラキシーの診断・治療 – 渋谷内科呼吸器アレルギークリニック, 6月 6, 2025にアクセス、 https://shibuya-naika.jp/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%86%85%E7%A7%91/%E9%81%8B%E5%8B%95%E8%AA%98%E7%99%BA%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%83%BB%E6%B2%BB%E7%99%82/
  16. 消 防 救 第 8 3 号 令和5年3月 30 日 各都道府県消防防災主管部(局)長 殿 消防庁救急企, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/20230330_kyuuki_01.pdf
  17. バッグバルブマスク換気 – 21. 救命医療 – MSDマニュアル …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/21-%E6%95%91%E5%91%BD%E5%8C%BB%E7%99%82/%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9A%84%E3%81%AA%E6%B0%97%E9%81%93%E5%87%A6%E7%BD%AE/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E6%8F%9B%E6%B0%97
  18. バッグバルブマスク | 看護師の用語辞典, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.kango-roo.com/word/20495
  19. www.jrc-cpr.org, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jrc-cpr.org/wp-content/uploads/2022/07/JRC_0047-0150_ALS.pdf
  20. kyoudou-hp.com, 6月 6, 2025にアクセス、 https://kyoudou-hp.com/DInews/2023/642.pdf
  21. 成人) – 大人用 – アナフィラキシー対応・簡易チャート, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jaam.jp/info/2021/files/20230614_o.pdf
  22. アナフィラキシーに対する自己注射が可能なアドレナリン(エピネフリン)製剤による アドレ – 厚生労働省, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001466202.pdf

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浴槽内死亡例の死因判断について

日本における浴槽内での死亡事例は、高齢者を中心に毎年多数報告されています。これらの死因を判断する際には、溺死、心疾患、脳血管障害、熱中症など、さまざまな要因が考慮されます。 死因の内訳 兵庫県監察医務室で2004年から2013年の10年間に検案された1,616件の浴槽内死亡例の分析によれば、直接の死因は以下の通りです。 兵庫県ウェブサイト 虚血性心疾患:最も多く、全体の約30%を占めています。 溺死:約11%。 不整脈:約13%。 心不全:約5%。 その他の病死:約14%。 また、東京都監察医務院のデータでも、浴槽内死亡例の死因として虚血性心疾患が最多であり、次いで脳血管障害、溺死が続いています。 J-STAGE 死因判断の手順 浴槽内での死亡事例の死因を特定する際には、以下の手順が取られます。 直接死因の特定:溺水の有無を確認します。溺水が認められる場合、肺のうっ血や気道内の泡沫などの所見が参考となります。 基礎疾患の確認:心疾患や脳血管障害など、既往歴や解剖所見から基礎疾患の存在を確認します。 環境要因の考慮:入浴中の高温環境や急激な温度変化によるヒートショック、飲酒や薬物の影響など、環境要因も考慮されます。 総合的判断:以上の情報を総合して、最も可能性の高い死因を特定します。 課題と対策 浴槽内死亡の死因判断には、以下の課題があります。 死後変化の影響:高温環境下では死後変化が早く進行し、正確な死因特定が難しくなることがあります。 多様な要因の絡み合い:心疾患、脳血管障害、溺水、熱中症など、複数の要因が同時に関与している場合、どれが主な死因かを判断するのが難しいことがあります。 これらの課題に対処するため、詳細な現場検証や解剖、さらにはCT検査(Ai-CT)などの画像診断が活用されています。 浴槽内死亡では死亡保険支払額が変わってくることがあります。 死亡保険に「不慮の事故」に対する補償が付いている場合、浴槽内死亡がその補償の対象となるかどうかは、死亡原因と保険の契約条件によります。以下のポイントを確認する必要があります。 1. 「不慮の事故」の定義 保険会社による一般的な定義では、「不慮の事故」とは「外部からの急激かつ偶然な出来事によって生じた怪我や死亡」を指します。 例:滑って転倒したり、何かにぶつかって発生した事故。 注意:疾患や自然死は通常、「不慮の事故」には該当しません。 2. 浴槽内死亡が対象となるケース 次のような場合、不慮の事故として認められる可能性があります。 (a) 滑って転倒し頭を打った場合 浴槽に入る際、または浴室で滑って転倒し、頭を打ったりして意識を失った場合。 (b) 溺死と診断された場合 意識を失い溺れた結果として死亡した場合、保険会社が「不慮の事故」と判断することがあります。 3. 対象外となる可能性があるケース 次の場合は不慮の事故と見なされない可能性があります。 (a) 病死による死亡 心筋梗塞や脳卒中などの病気が原因で浴槽内で死亡した場合、不慮の事故の補償対象外となることが一般的です。 (b) 疾患による二次的な溺死 心疾患や脳血管障害によって意識を失い、結果的に溺死した場合も、不慮の事故ではなく基礎疾患が原因と見なされることが多いです。 4. 保険金の支払いを確認するためのポイント 死亡診断書の記載内容: 死因が「溺死」と明記されているかどうかが重要です。 併記されている基礎疾患(例:心疾患や脳卒中)が主因とされる場合、事故として認められない可能性があります。 契約時の保険約款: 保険契約における「不慮の事故」の具体的な定義や免責事項を確認してください。 事故証明書: 浴室で滑って転倒したなどの物的証拠があれば、保険金請求の際に有利となる場合があります。 5....

救急救命士国家試験 第43回A26解説

https://www.youtube.com/watch?v=SEoXzkcWBAA

救急救命士国家試験 第43回D7解説

https://youtu.be/DG-VotjpdX0 心電図のノイズについて 1. 交流障害(ハムノイズ) 特徴 周波数:50Hzまたは60Hz(電源周波数による影響) 波形:等間隔の正弦波(周期的) 周期性:一定の間隔で繰り返される 振幅:一定(大きく変化しない) 心拍との関係:なし(電源由来なので心拍とは無関係) 影響範囲:特定の誘導(複数のリードに影響が出ることが多い) 原因 電源の影響 交流電源(コンセント)の近くにリード線がある 電気機器の干渉(蛍光灯、パソコン、モニター) 心電図機器の接地(アース)が不適切 電極の接触不良 皮膚が汗や皮脂で汚れている 電極の粘着力が弱い 電極が乾燥している 対策 ✅ 電源ケーブルとリード線を分離する✅ 適切なアース(接地)を行う✅ 電極の密着を確認し、皮膚を清潔にする✅ 交流フィルター(50/60Hzノッチフィルター)を適用する 2. 高周波ノイズ 特徴 周波数:数百Hz~数kHz(交流ノイズよりもはるかに高い) 波形:ランダムで細かいギザギザ(鋭くて不規則な振動) 周期性:なし(波形が不規則) 振幅:不安定 心拍との関係:なし(外部の電子機器由来) 影響範囲:全体に影響することが多い 原因 電磁干渉(EMI) 携帯電話、Wi-Fiルーター、電子レンジ、無線機器 医療機器(電気メス、透析機、MRI装置など)の影響 シールドの不適切な機器やケーブル 静電気放電(ESD) 冬場などで発生しやすい 対策 ✅ 電子機器を心電図機器から遠ざける✅ シールド付きのリード線を使用する✅...

心電図学習用紙 画像素材

心電図検定1級を持っている救命士に、心電図検定の勉強の1つとして写経(心電図を書き写す)という方法があるのを教えてもらいました。 心電図を見て読めるのも当然大事ですが、書(描)けるようになるとさらに良いそうです。 1級取る前はひたすら心電図マイスターチャンネル(https://www.youtube.com/@ecg_meister)の動画を見てはノートに書いていたそうです。 ということでご用意しました。 保存してGoodNoteなどに貼ってご利用ください。

DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)のクスマウル呼吸

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