65歳の男性。突然倒れたため家族が救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識JCS100。呼吸数32/分。脈拍44/分、整。血圧192/106㎜Hg。
右上下肢を動かさない。右足底の小趾側を強く刺激したときに母趾の背屈と2~5趾 の開扇現象が出現した。
この神経所見はどの反射に分類されるか。1つ選べ。
1. 腱反射
2. 病的反射
3. 表在反射
4. 筋伸展反射
5. 迷走神経反射
【問題の概要と重要ポイント】
この問題は、救急現場における迅速かつ的確な神経学的評価の重要性を示す症例に基づいています。以下に、問題文から読み取れる主要な情報を整理し、この問題が受験者に求める核心を明確にします。
- 患者情報と主訴の要約
- 患者背景: 65歳の男性。
- 主訴: 突然倒れたため家族が救急要請。
- この年齢での「突然倒れた」という主訴は、脳卒中、心疾患、重篤な神経学的救急疾患など、緊急性の高い病態を強く示唆します。家族による救急要請は、発症が急激で、周囲が異常を察知するほどの状態であったことを物語っています。
- 救急隊到着時観察所見の要点
- 意識レベル: JCS (Japan Coma Scale) 100。
- JCSは日本で広く用いられる意識障害の評価スケールです 1。JCS 100は、3桁の分類に該当し、「痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする」状態を示します 2。これは、呼びかけには開眼せず、痛み刺激に対してある程度の運動反応が見られるものの、意思疎通は不可能な重篤な意識障害です。このレベルの意識障害は、脳の広範な機能低下、あるいは脳幹機能の障害を示唆します。
- 呼吸: 呼吸数 32回/分。
- 成人の正常呼吸数は12~20回/分であり、32回/分は頻呼吸(ひんこきゅう)です。この頻呼吸は、低酸素血症、高二酸化炭素血症、代謝性アシドーシス、あるいは脳損傷(特に脳幹への圧迫など)に起因する神経原性の呼吸調節異常など、様々な原因が考えられます。
- 脈拍: 脈拍 44回/分、整。
- 成人の正常脈拍数は60~100回/分であり、44回/分は徐脈(じょみゃく)です。脈拍が整であることは特記すべき所見です。
- 血圧: 血圧 192/106 mmHg。
- これは著しい高血圧です。収縮期血圧も拡張期血圧も大幅に上昇しています。
- 神経学的所見:
- 右上下肢を動かさない。
- これは右片麻痺(みぎかたまひ)、すなわち身体の右半身の運動麻痺を示唆しており、左大脳半球または脳幹の障害が強く疑われます。
- 右足底の小趾側を強く刺激したときに母趾の背屈と2~5趾の開扇現象が出現した。
- これは、後述するバビンスキー反射の陽性所見の典型的な記述です。
これらのバイタルサインの組み合わせ、特に著しい高血圧(192/106 mmHg)と徐脈(44回/分)は、頭蓋内圧亢進を示唆するクッシング現象(Cushing’s phenomenon)の可能性を考慮すべき重要なサインです 3。クッシング現象は、脳ヘルニアなどの生命を脅かす状態が切迫していることを示す危険な兆候であり、迅速な対応が必要です。頻呼吸(32回/分)も、クッシング現象における呼吸異常の一環として捉えることができます。さらに、右片麻痺と右足のバビンスキー反射陽性という一側性の神経脱落症状は、病変が中枢神経系の特定部位に存在することを示しています。運動神経路である錐体路は延髄で交叉するため、右半身の症状は主に左大脳半球の障害を示唆します。
- この問題が受験者に求める理解と判断の核心
- この問題は、提示された特異的な神経学的所見(足底刺激に対する母趾の背屈と他趾の開扇現象)が、どの反射カテゴリーに属するのかを正確に識別する能力を問うています。
- さらに、この所見が正常な生理的反応ではなく、特定の神経系の障害(特に錐体路障害)を示唆する重要な兆候であるという臨床的意義を理解しているかどうかも評価しています。
【正解の根拠と詳細解説】
- 正解の特定: 2. 病的反射
- 正解である理由の論理的説明
- 問題文の所見の分析: 問題文には「右足底の小趾側を強く刺激したときに母趾の背屈と2~5趾の開扇現象が出現した」と記述されています。これは、神経学的診察における**バビンスキー反射(Babinski reflex)**の誘発手技と陽性所見を正確に描写したものです。
- バビンスキー反射の医学的定義と意義: バビンスキー反射は、足底の外側を踵から小趾球に向かって、やや鋭利なものでゆっくりとこすり上げることで誘発されます。この刺激に対し、母趾が足背側にゆっくりと背屈し、他の4趾が扇のように開く(開扇現象、fan sign)場合を陽性とします 4。 この反射は、乳児期(通常生後1~2歳頃まで)には生理的に認められる原始反射の一つですが、神経系の成熟とともに消失します 5。2歳以降の小児や成人においてこの反射が出現する場合、それは病的反射(pathological reflex)とされ、大脳皮質から脊髄に至る運動神経路である錐体路(pyramidal tract)の障害を示唆する極めて重要な所見です 4。錐体路は随意運動を支配する主要な経路であり、この経路が障害されると、下位の運動ニューロンに対する抑制が解かれ、原始的な反射が再び出現すると考えられています。これを「解放現象(release phenomenon)」と呼ぶこともあります。
- 本症例への適用: 本症例の患者は65歳の成人です。この年齢の成人においてバビンスキー反射が陽性であることは、明らかに異常な所見です。したがって、この神経所見は「病的反射」に分類されます。患者の突然の意識障害(JCS100)、右片麻痺といった他の所見と合わせると、左大脳半球の錐体路を含む領域における急性の重篤な障害(例:脳梗塞、脳出血)が強く疑われます。
- 着目すべきキーワードと正解への結びつき
- キーワード1: 「母趾の背屈」
- キーワード2: 「2~5趾の開扇現象」
- キーワード3: 「右足底の小趾側を強く刺激したとき」
- これらのフレーズの組み合わせは、バビンスキー反射陽性の古典的な記述です。このパターンを認識することが、本所見を病的反射であると判断するための鍵となります。
- 関連する病態生理と診断基準
- 錐体路障害: 錐体路は大脳皮質の運動野から始まり、内包、中脳の大脳脚、橋、延髄の錐体を通り、脊髄を下行して全身の随意筋を支配します。この経路のどこかが脳卒中(脳梗塞や脳出血)、脳腫瘍、頭部外傷、脱髄疾患(例:多発性硬化症)などによって障害されると、バビンスキー反射を含む上位運動ニューロン障害の徴候が出現します 4。 本症例では、右足のバビンスキー反射陽性は、右下肢を支配する錐体路の障害を示しています。右上下肢の麻痺と合わせて考えると、左大脳半球の広範な障害、あるいは脳幹レベルでの障害が考えられます。
- 病的反射としての位置づけ: 病的反射とは、健常者には見られない、あるいは正常な反射が異常に誇張されたり変形したりしたもので、神経系の疾患を示唆するものです。バビンスキー反射は、成人における病的反射の代表例です。 なお、バビンスキー反射の評価においては、左右差の確認が重要です 5。本症例では右側のみの記述ですが、臨床現場では必ず両側を検査し、一側性か両側性か、他の神経所見との整合性を評価します。一側性のバビンスキー反射は、対側の脳病変や同側の脊髄病変をより強く示唆する局在診断の手がかりとなります。
【各不正解選択肢の解説】
- 選択肢1:腱反射(けんへんしゃ)
- なぜ誤りか: 腱反射(深部腱反射とも呼ばれます)は、筋肉の腱を叩打器(ハンマー)で叩くことで、その筋肉が瞬間的に収縮する反射です 6。例えば、膝蓋腱反射(膝の下を叩くと足が跳ね上がる反射)や上腕二頭筋反射などがあります。問題文で記述されている「足底の小趾側を強く刺激する」という手技は、腱を叩打するものではなく、また「母趾の背屈と2~5趾の開扇現象」という反応も、腱反射の典型的な筋収縮とは異なります。バビンスキー反射は多シナプス反射であり、その機序も腱反射(主に単シナプス反射)とは異なります。
- どのような状況であれば正解となり得るか: 問題文が「膝蓋腱を叩打したところ、大腿四頭筋が収縮した」といった内容であれば、この選択肢が正解となり得ます。
- 選択肢3:表在反射(ひょうざいはんしゃ)
- なぜ誤りか: 表在反射は、皮膚または粘膜への刺激によって誘発される反射です 8。足底皮膚反射(足底をこすると足趾が屈曲する正常な反応)も表在反射の一つです。バビンスキー反射を誘発する際の刺激(足底をこする)は皮膚への刺激であるため、広義には表在刺激による反射と言えます。しかし、バビンスキー反射の「母趾の背屈と他趾の開扇」という反応パターンは、成人に認められた場合には異常な反応であり、錐体路障害を示す病的反射として特異的に分類されます。選択肢に「病的反射」がある以上、より正確で臨床的意義の高い分類を選ぶべきです。単に「表在反射」とすると、それが正常反応なのか異常反応なのかが不明確になります。
- どのような状況であれば正解となり得るか: もし問題文の刺激に対して、母趾を含む全ての足趾が足底側に屈曲する「正常な足底反射」が観察され、その反射の分類を問われた場合には、「表在反射」が正解となり得ます。
- 選択肢4:筋伸展反射(きんしんてんはんしゃ)
- なぜ誤りか: 筋伸展反射は、筋肉が急に引き伸ばされた際に、その筋肉自体が収縮する反射であり、本質的には腱反射と同義です 10。腱を叩くことは、その腱が付着する筋肉を瞬間的に引き伸ばすことになり、筋紡錘という受容器が刺激されて反射が起こります。したがって、選択肢1の腱反射が誤りである理由と同様に、この選択肢も誤りです。バビンスキー反射の誘発手技や反応様式は、典型的な筋伸展反射とは異なります。
- どのような状況であれば正解となり得るか: 腱反射と同様の状況、すなわち筋肉が直接的または間接的に急激に伸展される刺激とその反応が記述されていれば、正解の可能性がありましたが、本問の所見には合致しません。
- 選択肢5:迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)
- なぜ誤りか: 迷走神経反射は、迷走神経(副交感神経の一部)が過剰に刺激されることによって起こる一連の全身的な反応です。典型的には、徐脈、血圧低下、顔面蒼白、悪心、冷や汗、失神などを引き起こします 12。強い痛み、精神的ストレス、長時間の立位などが誘因となることがあります。問題文で記述されている「母趾の背屈と2~5趾の開扇現象」という局所的な足の運動反応は、迷走神経反射の症状ではありません。本症例の患者には徐脈(脈拍44/分)が見られますが、これはクッシング現象の一環として頭蓋内圧亢進による脳幹への影響で生じている可能性が高く、足の所見とは直接的な関連が薄いです。問題は足の神経所見の分類を問うています。
- どのような状況であれば正解となり得るか: 問題文が「注射時の痛みで意識を失い、血圧低下と徐脈を認めた」といった内容であれば、迷走神経反射(血管迷走神経性失神)が正解となり得る状況です。
反射の分類においては、刺激の種類(皮膚、腱など)だけでなく、反応のパターンとその生理学的・病理学的意義を総合的に理解することが重要です。バビンスキー反射は、表在刺激によって誘発されますが、その反応が錐体路障害という特定の病態を示すため、「病的反射」というカテゴリーに分類するのが最も適切かつ臨床的に有益です。
【本症例における判断のポイントと関連知識】
この症例を正しく理解し、適切な救急現場活動を行うためには、以下の思考プロセス、判断の分岐点、および関連知識が重要となります。
- 正解を導くための思考プロセスと判断の分岐点
- 刺激と反応の認識: まず、問題文に記述された「右足底の小趾側を強く刺激したとき」という刺激方法と、「母趾の背屈と2~5趾の開扇現象」という特異的な反応を正確に把握します。
- バビンスキー反射の想起: この刺激と反応の組み合わせが、バビンスキー反射の典型的な誘発方法と陽性所見であることを想起します。
- 年齢の考慮: 患者が65歳の成人であることを確認します。
- 病理学的意義の理解: 成人におけるバビンスキー反射の陽性は、錐体路障害(上位運動ニューロン障害)を示す異常所見であることを理解しています 4。
- 病的反射としての分類: 上記の理解に基づき、この所見が「病的反射」に分類されると判断します。
- 他の反射との鑑別: 腱反射、正常な表在反射、筋伸展反射、迷走神経反射など、他の選択肢で提示されている反射の定義や特徴と比較し、本所見がそれらに該当しないことを確認します。
- 救急現場活動における重要な観察・評価項目、処置、連携
本症例のような重篤な神経学的救急事案においては、迅速かつ系統的なアプローチが求められます。 - 初期評価(ABCDEアプローチ):
- A (Airway): JCS100という意識障害レベルでは、舌根沈下による気道閉塞や嘔吐物による誤嚥のリスクが高いため、気道確保が最優先です。必要に応じて気道吸引、エアウェイ挿入、さらには気管挿管の準備も考慮します。
- B (Breathing): 呼吸数32回/分と頻呼吸であり、呼吸パターン、深さ、努力呼吸の有無、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を評価します。高濃度酸素投与を開始し、換気が不十分であればバッグバルブマスクによる補助換気を検討します。
- C (Circulation): 脈拍44/分(徐脈)、血圧192/106mmHg(高血圧)を把握し、皮膚の色調・湿潤、末梢循環(キャピラリーリフィルタイム)などを評価します。静脈路確保を迅速に行い、心電図モニターを装着します。
- D (Disability – 神経学的評価):
- 意識レベル(JCS100)を再評価し、経時的な変化に注意します 1。
- 瞳孔所見(左右差、対光反射)を確認します。
- 運動麻痺(右片麻痺)の範囲と程度を評価します。
- バビンスキー反射の陽性を確認します(可能であれば反対側も評価し左右差を確認)。
- 血糖測定は、意識障害や神経症状を呈する全ての患者で必須です。低血糖はこれらの症状の原因となり得るため、迅速に除外または対応する必要があります。
- E (Exposure/Environment): 全身観察のために必要に応じて衣服を除去し、低体温を予防するために保温に努めます。
- クッシング現象の認識と対応: 前述の通り、高血圧(192/106mmHg)と徐脈(44回/分)、そして頻呼吸(32回/分)は、頭蓋内圧亢進を示唆するクッシング現象(またはクッシングトライアド)の可能性があります 3。この所見は脳ヘルニアが切迫している危険なサインであり、極めて緊急性が高い状態です。 クッシング現象(頭蓋内圧亢進の兆候)
兆候 | 本症例での所見 | 生理学的機序(概要) | 救急現場での意義 |
高血圧 (Hypertension) | 192/106 mmHg | 脳灌流圧維持のため代償的に血圧上昇 | 重篤な頭蓋内病変を示唆 |
徐脈 (Bradycardia) | 44回/分 | 圧受容器反射による迷走神経刺激 または 脳幹圧迫 | 頭蓋内圧亢進の進行を示唆 |
呼吸異常 (Abnormal Resp.) | 32回/分 (頻呼吸) | 脳幹の呼吸中枢への影響、低酸素、CO2蓄積など | 生命の危機的状況、換気補助の必要性判断 |
* **急性期脳卒中を疑った場合の対応:**
* **発症時刻の確認:** 「突然倒れた」との情報から、可能な限り正確な発症時刻(または最終健常確認時刻)を聴取します。これは治療方針(特に血栓溶解療法など)の決定に極めて重要です。
* **迅速な搬送:** 脳卒中専門施設(血栓回収療法などが可能な施設)への迅速な搬送を最優先します。
* **病院への事前連絡:** 収容依頼時に、年齢、性別、発症時刻、JCS、バイタルサイン(特にクッシング現象を示唆する所見)、右片麻痺、バビンスキー反射陽性などの主要所見を伝え、「脳卒中疑い、重症」であることを明確に伝達します(例:「脳卒中コールをお願いします」)。
* **体位:** 禁忌がなければ、頭部を30度程度挙上することで頭蓋内圧を若干低下させる効果が期待できるとされていますが、搬送中の安全確保を優先します。頸部の屈曲や回旋は静脈還流を妨げ、頭蓋内圧を上昇させる可能性があるため避けます。
* **継続的なモニタリング:** 搬送中もバイタルサイン、意識レベル、神経所見の変化を継続的に監視し、記録します。
* **関係機関との連携:** 医療コントロール医師や受け入れ病院との密な情報共有と指示受けが重要です。
- 倫理的配慮と安全管理
- 尊厳の保持: 患者が重篤な意識障害状態であっても、一人の人間としての尊厳を最大限に尊重し、丁寧な対応を心がけます。
- コミュニケーション: 反応がないように見えても、処置を行う際には簡単な声かけをすることが望ましいです。家族が現場にいる場合は、不安を軽減できるよう、可能な範囲で状況を説明し、精神的なサポートを提供します。
- 安全管理: 観察、処置、搬送の全ての過程で、患者の安全を最優先します。ストレッチャーへの確実な固定、急激な体動の回避など、二次的な損傷を防ぐための配慮が必要です。
本症例のバビンスキー反射という一つの神経所見は、それ自体が重要な診断的価値を持ちますが、JCS100、右片麻痺、そしてクッシング現象を示唆するバイタルサインといった他の所見と統合して初めて、患者が置かれている危機的状況の全体像が明らかになります。救急救命士は、個々の所見を正確に評価する能力に加え、それらを総合的に解釈し、病態を推論する臨床判断能力が求められます。そして、この判断に基づいて、「Time is Brain(時間は脳)」の原則に則り、迅速かつ適切な処置と搬送を行うことが、救命率の向上と後遺症の軽減に繋がります 14。
【学習の要点と応用】
この問題を解き、さらに理解を深めるためには、以下の医学的知識、関連法規、プロトコルなどを習得することが不可欠です。また、これらの知識を他の類似問題や実際の臨床現場で応用するための視点も重要です。
- 習得すべき重要な医学的知識、関連法規、プロトコル
- 反射の分類と評価:
- 深部腱反射(例:膝蓋腱反射、アキレス腱反射など)の誘発方法、正常反応、亢進・低下・消失の意義 6。
- 表在反射(例:腹壁反射、正常な足底反射など)の誘発方法と正常反応 8。
- 病的反射: 特にバビンスキー反射の誘発方法、陽性所見(母趾の背屈、他趾の開扇)、およびその臨床的意義(錐体路障害)4。
- 各反射の評価における左右差の重要性。
- バビンスキー反射の臨床的意義:
- 錐体路(上位運動ニューロン)障害の客観的で重要な指標であること 4。
- 成人における陽性所見は、脳血管障害、脳腫瘍、脊髄損傷など、原因疾患の検索が必要な重篤なサインであること。
- 神経学的評価の基本:
- 意識レベルの評価:JCS(Japan Coma Scale)の各段階(1桁、2桁、3桁)と各スコア(例:1, 2, 3, 10, 20, 30, 100, 200, 300)の正確な定義と評価方法の習熟 1。
- 瞳孔所見:大きさ、左右差、形状、対光反射(直接・間接)の評価と異常所見(散瞳、縮瞳、左右不同など)の意義。
- 運動麻痺:片麻痺、単麻痺、対麻痺、四肢麻痺の区別、麻痺の程度の評価(徒手筋力テストの概念)。
- 感覚障害の評価(救急現場では詳細な評価は困難な場合もあるが、基本的なアプローチを理解)。
- 頭蓋内圧亢進の兆候:
- クッシング現象(高血圧、徐脈、呼吸異常)の3主徴を認識し、その病態生理(脳ヘルニアのリスク)を理解すること 3。
- その他、頭痛、悪心・嘔吐、うっ血乳頭なども頭蓋内圧亢進を示唆する所見であること。
- 急性期脳卒中への対応プロトコル:
- 地域ごとの脳卒中救急搬送体制(例:脳卒中センターへの直接搬送基準など)の理解。
- 発症時刻の確認の重要性と、迅速な評価・病院選定・医療機関への早期連絡(プレアライバルノーティフィケーション)の徹底 14。
- 学習を深めるべき領域と応用
- 神経解剖学: 錐体路の起始(大脳皮質運動野)、走行(内包、脳幹、脊髄)、交叉(延髄錐体交叉)、終止(脊髄前角細胞)を理解することで、病変部位と症状の関連性がより明確になります。大脳皮質、脳幹(中脳・橋・延髄)、小脳、脊髄のそれぞれの機能と、障害された場合の典型的な症状について学習を深めます。
- 脳卒中の病型と病態生理: 脳梗塞(アテローム血栓性、心原性塞栓性、ラクナ梗塞など)、脳出血(高血圧性、脳動脈瘤破裂に伴うものなど)、くも膜下出血といった主要な脳卒中の種類、好発部位、危険因子、特徴的な症状、画像所見、治療法について理解を深めます。これらがどのように神経症状(麻痺、意識障害、バビンスキー反射など)を引き起こすのか、そのメカニズムを学びます。
- 鑑別診断: 突然の意識障害や神経脱落症状をきたす疾患は脳卒中以外にも多数あります。例えば、低血糖発作、てんかん重積状態、中毒(薬物、一酸化炭素など)、頭部外傷、髄膜炎・脳炎、代謝性脳症などが挙げられます。これらの疾患の特徴的な症状や検査所見を整理し、鑑別のポイントを学ぶことが重要です。
- 類似問題・発展問題への応用:
- バビンスキー反射以外の病的反射(例:ホフマン反射、トレムナー反射、チャドック反射、ワルテンベルク反射など)についても、その誘発方法、陽性所見、臨床的意義を学習することで、より広範な神経学的評価に対応できるようになります 4。
- 意識レベルの評価スケールとして、JCSだけでなくGCS(Glasgow Coma Scale)も国際的に広く用いられています。GCSの評価項目(開眼、言語反応、運動反応)と採点方法、JCSとの違い、それぞれの利点・欠点、状況に応じた使い分けについて理解を深めます 1。
- 小児の神経学的評価は成人と異なる点が多くあります。例えば、バビンスキー反射は乳児期には生理的に認められること 5、意識レベルの評価方法(小児用GCSなど)、けいれんの好発など、小児特有の点を理解しておく必要があります。
救急救命士にとって、神経学的所見を正しく評価し解釈する能力は、重篤な疾患を迅速に見抜き、適切な初期対応と搬送判断を行う上で極めて重要です。本問で問われたバビンスキー反射のような個々のサインの理解から始め、それらを統合して病態を推論する「症候群的思考」、そしてプロトコルに基づいた標準的対応へと繋げていくことが、質の高い救急医療の実践に不可欠です。継続的な学習を通じて、知識と技術、そして臨床判断能力を高めていくことが期待されます。
引用文献
- 【意識レベル評価】JCS・GCSとは?意識障害時の対応は? | 循環器 …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://motoyawata.clinic/blog/jcs-gcs/
- 【意識レベルはこれで完璧!】JCSとGCSの評価方法、使い分けを徹底解説! – YouTube, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=s8m3wrog_X4&pp=0gcJCdgAo7VqN5tD
- 脳卒中を理解するための「解剖」と「生理」|クッシング現象など …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2402/index02.html
- バビンスキー徴候|上部運動ニューロン病変の評価 – Physiotutors, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.physiotutors.com/ja/wiki/babinski-sign/
- バビンスキー反射【ナース専科】 – 看護用語集, 6月 6, 2025にアクセス、 https://medical-term.nurse-senka.jp/terms/1942
- www.jikosoudan.net, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.jikosoudan.net/article/14510978.html#:~:text=%E8%85%B1%E5%8F%8D%E5%B0%84%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E8%85%B1,%E3%81%8C%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
- 腱反射1 – 亀田メディカルセンター|亀田総合病院 脊椎脊髄外科 医療 …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.kameda.com/pr/teamspine/post_69.html
- webview.isho.jp, 6月 6, 2025にアクセス、 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1436200487#:~:text=Neurological%20Surgery%20%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%A4%96%E7%A7%91%204%E5%B7%BB8%E5%8F%B7%20%EF%BC%881976%E5%B9%B4,English&text=%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%AF%E7%B2%98%E8%86%9C%E3%81%AB%E5%8A%A0%E3%81%88,%E3%82%92%E8%A1%A8%E5%9C%A8%E5%8F%8D%E5%B0%84%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%EF%BC%8E
- 反射検査法・2—表在反射・病的反射 (Neurological Surgery 脳神経 …, 6月 6, 2025にアクセス、 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1436200487
- www.wajo-kitahiro.com, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.wajo-kitahiro.com/post/%E3%81%93%E3%82%80%E3%82%89%E8%BF%94%E3%82%8A%E3%82%92%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%99%E3%82%8B-%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0#:~:text=%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%80%8C%E7%AD%8B%E7%B4%A1%E9%8C%98,%E4%BC%B8%E5%B1%95%E5%8F%8D%E5%B0%84%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
- こむら返りを科学する①原因とメカニズム, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.wajo-kitahiro.com/post/%E3%81%93%E3%82%80%E3%82%89%E8%BF%94%E3%82%8A%E3%82%92%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%99%E3%82%8B-%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0
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- 迷走神経反射とは?症状が起きる原因と予防方法を解説 – MYメディカルクリニック, 6月 6, 2025にアクセス、 https://mymc.jp/clinicblog/233642/
- ガイドライン2020に基づく心肺蘇生法 – 新潟市, 6月 6, 2025にアクセス、 https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/bohan/shobo/oshirase/kyukyuinfo/teate/new-cpr.html